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ノスタルジア 4K修復版のreinaのレビュー・感想・評価

ノスタルジア 4K修復版(1983年製作の映画)
3.9
タルコフスキーの作品はなんだかロシア語じゃないとしっくりこないかも。私はどちらの言語もできないけれど、ロシア語のスラヴ語らしいやや無骨で冷たい音の響きが彼の映画には必要だと思う。今作のテーマや画作りもタルコフスキーらしさ全開だけど政治的なシーン(広場のシーン)があるのは珍しい気がする。政治的と言っても彼のそれは「国家や地球」規模の話ではなく、この世界の存在そのものに及ぶメッセージのような気もした。彼の作品はとても個人的な話と人智の及ばない事柄を扱うことが多くそのふたつの中間に存在するいわゆる「普通の生活」は描かれない。

『鏡』、『ストーカー』、『惑星ソラリス』そして『ノスタルジア』を観て感じたのはタルコフスキーの映画はとても個人的であると同時に普遍的な祈りのようだ。彼の作品を観て体験するという行為が何かを祈るという行為に近い気がする。今回登場した「蝋燭に火を灯して広場の温泉を渡り切れたら世界は救済される」というシーン。信仰を持たない人でも他にどうする術もないとき「何か」に対して「祈る」/「願う」。一般的な諸宗教だけに限らず、人間はそれぞれ何か個人的な「祈りの対象」を持っている気もする。

長い髪をひとつにまとめた女性の後ろ姿、洗い髪の女性って『鏡』にも登場していた。やっぱりタルコフスキーの母親のイメージなのかなと思う。今までの作品から彼の母親の思い出やイメージが繰り返し登場するので、嫌でも父親の不在が浮き彫りとなる。調べたら彼の詩人の父は早くに家を出て別の家庭を作ったとのこと。映画の最後に今作をタルコフスキーの母へと捧ぐとあった。

タルコフスキーはあまり他の人に作品を理解して欲しいという欲求は持たない人だったのかなと個人的に思う。
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