豚肉丸

Unrest(英題)の豚肉丸のレビュー・感想・評価

Unrest(英題)(2022年製作の映画)
4.4
スイスのある小さな時計工場ではアナキズムが密かに浸透していた。そこに地図を作成していたクロポトキンがやって来て...というお話

フォロワーさんからオススメされて気になっていた映画だったのだが、なんとカイエ・デュ・シネマの年間ベストにランクインされていて驚いた。

本作はかなり独特なスタイルを取っている。スイスの時計工場で働く女性を主人公にアナキズムの浸透を描くのだが、その側面にピョートル・クロポトキンの地図作成の様子が描かれる。劇中では様々な出来事が描かれるものの、殆ど映像で見せられることはなく、物語と映像の殆どは労働者の姿と遠景から風景を切り取ったようなショットで映される町の様子ぐらいしか描かれない。しかし確実にアナキズムの思想は潜在的に浸透しており、労働者の姿を映すことでその流れを明らかにさせる手法が面白い。タイトルである「Unrest」は様々な意味を帯びているのだが、「不安」を意味していると同時に時計のある部分を示唆している。その部分は本作の物語構造、そしてピョートル・クロポトキンのキャラクター性を象徴しているようで良かった。

そしてまた良いのが、時計を作る労働作業。繊細な作業が求められる職業の特性故にテレビで作業風景が特集されやすい作業であるが、本作はその作業風景に作業のノルマを課すことで緊張が張り詰めた映像となっており面白かった。これがまさに資本主義の加速であるからこそ、アナキズムの浸透という物語も意味のあるものになる。
あと空間と人物の動作を捉えたような俯瞰ショットが頻繁に現れるから良い。俺は俯瞰ショットが大好きなので...

何も知らない状態で見てしまったので、とりあえずピョートル・クロポトキンとアナキズムの時代背景を頭に入れた上でもう1度見直したいが、自分好みの要素が詰め込まれていてなかなか面白かった。シリル・ショーブリン監督は今後も追いたいな...
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