KengoTerazono

キムズ・ビデオのKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

キムズ・ビデオ(2023年製作の映画)
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去年山形にて。

これをイタリア人(特に映画の舞台となったシチリアに住む人)はどのように観るのだろうか。ある意味イタリア人にとっての『コーヴ』という気もする。

映画狂とはまさにこのことで、映画を我が子のように愛し、それらを取り戻す復讐劇は、映画好きの端くれとして共感せざるを得ない。
ただ、あまりにも物語的に観れてしまうこの映画は、事の正しさすら撹乱してしまって、映画に絡め取られてしまう。
簡単に作り手の正義や彼の紡ぐ物語に没入できてしまうのは留保すべきことだとおもう。

マフィアと政治の癒着にまで話は発展していき、愛すべき違法ビデオの話がどんどん大きな事態となっていくスペクタクルは、これがドキュメンタリーであるということも相まって見もの。

思えばこの映画に合法的な正しさなんて微塵もないのだ。ビデオは違法にダビングされたものだし、作り手は海外で不法侵入やら盗撮やらを繰り返す。ビデオは半ば不法にアメリカへ持ち帰られ、両者は互いに互いの面倒ごとに目を瞑るかのように和解する。
だが、違法ビデオはその違法性ゆえに文化的価値のあるものとなり、その文化財を雑に保存したシチリアの行政には、映画を少しでも愛する人間なら怒り心頭に発することこの上ない。それを我が手に取り戻すプロセスは、映画人にとって自分たちの思い出を自分自身で取り戻すプロセスと同義なのだろう。だからこそ、作り手に同一化せざるを得なくなってしまう。それが正しいかどうかはともかくとして。
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