回想シーンでご飯3杯いける

ジョン・バティステ:アメリカン・シンフォニーの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

2.8
第96回アカデミー賞にノミネートされているNetflixオリジナルの中で、唯一観ていなかった作品。

ジョン・バティステはジャズ出身の天才肌のミュージシャンで、最近ではレゲエやワールドミュージック等にも挑戦し、ポップスとしても広く人気を博している。本作は、そんな彼が世界中に分散する様々な音楽をシンフォニー形式でまとめたオリジナルの交響曲「アメリカン・シンフォオニー」を作曲し、カーネギー・ホールで演奏するまでを捉えたドキュメンタリーである。

しかし、その準備期間中に妻で作家のスレイカ・ジャワードが白血病を再発。これにより、本作もバティステが彼女を看護するシーンに多くが割かれる事になった。

僕が本作の鑑賞を避けていたのは、妻の病気に関するシーンが多く含まれている事が予想できたから。結果的にバティステの音楽を聞けるのは終盤の15分ほどである。

バティステも、そして病魔に侵されている妻も、絶えず前向きで、生活の中で得たインスピレーションを作品に反映させる事を忘れない。彼らのスタンスそのものは、正にアーティストであり、尊敬に値する。

しかし、ドキュメンタリーとしては、夫婦の顔のアップを多用したヒューマンドラマのような作りで、撮影現場で2人の至近距離に詰め寄るカメラマンの姿をどうしても想像してしまう。バティステもまた、それを良しとするような一風変わった人物である事も確かで、シーンを重ねる毎にモヤモヤが募ってしまう。

先日「ストップ・メイキング・センス 4Kレストア」のレビューでも書いた通り、ミュージシャンのドキュメンタリーでは、やはり音楽を聞きたいのである。2人に健康な日々が戻ってくる事を願って止まないが、その事と、音楽ドキュメンタリーとしての作りは、別問題だと思う。背景にドラマが無いと音楽ドキュメンタリーが成立しない。あるいは感動できない、みたいな風潮に陥らない事を願うばかりだ。