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撤退のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

撤退(2007年製作の映画)
4.0
初アモス・ギタイ監督。ドキュメンタリー出身だけあって、思っていた以上にリアルなイスラエルの姿でした。ジュリエット・ビノシュがガザに生き別れの娘を探しにいく話で、紛争はまったく見せないのに、ガザの緊張感の描き方がまるでドキュメンタリーのようです。それが後半で、長回しから始まる前半はアートで、フランスの邸宅で黒人のオペラ歌手による挽歌のシーンは荘厳でぞくぞくしました。

なかなか奥深い、イスラエル人監督によるイスラエルの映画。イスラエルでは不評なのはわかります。暗喩含めてイスラエルの厳格さを感じられました。お初の監督作品を必死に読み込んでしまいましたので、以下、長文です。


ビノシュ演じるアナはイスラエル人ですがフランスに住む父親と不仲でヘブライ語を教えてもらえませんでした。オランダ人の夫と結婚していますが、旅先ではパレスチナ人だと偽り、国籍はアイデンティティにならないと言います。  

タイトルの「撤退」とは、2005年にガザからイスラエル人入植者を撤退させることを決めた条約のこと。アラブ人は出生率が高く、人口が増え続け、ガザが手狭になっていくので、イスラエルが譲歩し、イスラエル人の入植者をガザから撤退させていったことがあったとは、18年前の穏和な政策や関係が今では考えられないです。

この作品で感じたイスラエルの印象は非常に厳しいものです。まず、自国のイスラエル人入植者を撤退させるのは、もちろん反対して抵抗する人々はいますが、それを強制的に威圧的に警察と軍隊が犯罪者のように連れていくこと。住んでいた家をその場で解体していきます。徹底して容赦ない強権を感じました。

詳しくないけど、アラブの文化はもっと緩く、宗教の戒律の厳格さは国によって違いますが、もっとおおらかな国民性の印象を持っています。

それに比べてイスラエルは宗教とは別に、国が一つの厳格なスキのない仕組みになっていて、純粋に結晶化させた固い印象をもちました。それらをあえて描いたと思われます。

また、真のユダヤ人の継承と拡大を感じました。アナの両親は夫婦仲がわるく、アナを純粋なユダヤ人の血ではないと父親は疑っていて、ヘブライ語を教えませんでした。しかし、キブツでアナがレイプされて生まれた孫を密かに可愛がり、遺産相続させたのは、ユダヤ人の血が濃くなったとしたからでしょう。また、純血の養子をアナの代わりにとっています。

旅の途中の会話からも、イスラエル人/ユダヤ人がヨーロッパ各国の人々と結婚するのを推奨し、拡大路線を進めているような話がありました。

おそらく、アナと弟の関係、アナと娘の関係にも、イスラエルの問題を投影させていると思います。

この監督の作品、他にも観てみたいです。


ジャンヌ・モローが弁護士役でちょこっと出ています。
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