これは、観客を徹底的に翻弄する映画だ。
前半、スタイリッシュでおしゃれな映像の断片がひたすら続く。とにかくかっこいいのだが、意味が全くわからない。何が起こっているのかわからず、話が進んでいるのかどうかもわからないまま、時間は流れていく。
中盤、前半のシーンの一部が反復され、あの断片的な映像が伏線として機能していることがわかる。しかし肝心のところは何もわからず、目隠しされたまま話が進んでいく感覚は変わらない。
後半になってようやく前半の伏線の回収されるテンポが上がり、ドラマは徐々に熱量を上げていく。だが何故か決定的なシーンを避けて通り、さらなる伏線が敷かれる。
物語がクライマックスを迎え、後日談と思われる描写に入り、このまま終わっていくのかと思ったところから、話はさらに二転三転し、忘れていたような前半シーンの伏線が回収されていく。えっ、と思っていると、画面にタイトルが大きく掲げられ、エンドロールを迎える直前に、本作で最も重要な種明かしがされる。我々はエンドロールを眺めながら物語をじっくりと反芻するのであった……。
正直、前半はあまりのわからなさに気が遠くなり眠気が襲ってきたが、終わってみれば「もう一回見せてくれ」と言いたくなるほど、物語の世界にハマってしまっていた。俳優陣が魅力的で、特にワン・イーボーの演技は、ミステリアスかつ非常に複雑なイエの人物像を見事に表現している。観客を翻弄し切るには、彼の演技力は不可欠だっただろう。
シーンごとに断片化して観客を撹乱し、小出しにしながら種明かしをしていく手法は好みが分かれるところだと思うが、絵作りの完成度の高さも相まって、満足度の高い一作だった。
難点は、これは本作に限らず韓国映画でもそうだが、日本語が聞き取りづらいこと。ネイティブでない俳優の日本語もそうだが、渡部を演じる森博之の日本語も流暢すぎて聞き取りづらい。映画のわかりにくさの何割かは、この日本語発音によるのではないだろうか。いつも思うが、ちゃんと日本語にも字幕をつけてほしい。