KSat

HereのKSatのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.0
ブリュッセルを舞台に、週明けにその地を去って故郷に帰ろうと考えるルーマニア移民の青年と、その地で苔の研究をしている中国移民の女性の、つかの間の邂逅。

特に何が起こるわけでもないのだが、時間と場所についての執念がとてつもなく、映画という表現を最大限生かした作品だった。

Here、というタイトルがものすごく秀逸だ。2人は、それぞれ友人や家族との会話は母国語であるルーマニア語と普通話で行う一方、この2人の会話だけは全てフランス語である。彼らはフランス語で対話を交わす時だけ、初めて、共通した状況に共に居ることを意識するのである。

去ろうとする者と留まろうとする者は3日という短い時間の中で出会い、対話を交わすだけだが、彼らの間に生え広がる苔は、おそらく何百年、何千年先であってもこの場に残り続ける。この時間と空間を同時に意識させる感性は、実に心地良く、思索に富んでいる。

都市と森の対比、自然のささやきを視覚的・聴覚的に表現しようとする姿勢、そこであえて異邦人を出すことでその場所を観る者に意識させる感覚は、ウィーラセタクンの「トロピカル・マラディ」を思い出した。
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