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サンクスギビングのhasisiのレビュー・感想・評価

サンクスギビング(2023年製作の映画)
3.7
米国。北東部にあるマサチューセッツ州。大西洋岸にある歴史ある町、プリマス。
町には、初代知事で巡礼者のジョン・カーヴァーの像が立っている。
感謝祭発祥の地でもあるプリマスは、ブラックフライデーの前夜を迎えていた。
地元のスーパーストアであるライトマートの駐車場には、大勢の人が押し寄せ、今や遅しと開店の時を待っている。
ガードフェンス越しに「早く玄関を開け!」と要求し、少ない警備員が対応に追われる。
やがて人々の波は玄関のガラス扉を蹴破って店内へ。貴重な商品を奪い合い、衝突する暴徒と化していた。

監督は、イーライ・ロス。
脚本は、ジェフ・レンデル。
2023年に公開されたスラッシャー映画です。
※終盤の展開に触れています。⚠️

【主な登場人物】🎄⛄
[アマンダ]ミッチの妻。
[エヴァン]ジャイアン。
[エリック]保安官。
[キャスリーン]継母。
[ギャビー]エヴァンの彼女。
[ジェシカ]主人公。
[スキューバ]黒人の学生。
[トーマス]経営者で父。
[ボビー]彼氏。
[ミッチ]髭の店長。
[ユリア]ロシア系の学生。
[ライアン]性悪イケメン。
[リジー]ウェイトレス。

【感想】📱🥶
ロス監督は、1972年生まれ。マサチューセッツ州出身の男性。
ユダヤ系。
代表作は『ホステル』
ホラーがベースだが、アクションやファンタジーも監督するなど多彩。

サブスクのランキングもハロウィンの時には真っ黒に染まるが、ホリデーシーズンには暖かな赤や緑に彩られる。
宗教の違いで、クリスマスが関係のないホラー好き監督には寂しい季節に。
彼の血塗られた思惑が、銀世界を暗い色で浸食しはじめる。

🪓〈序盤〉🏃🏼‍♀️🏃🏼‍♂️
物欲に感謝祭!
コロナが終わって群衆の復活。スーパーの入り口に押し寄せる人の波。
一歩間違えば、将棋倒しで怪我人が続出する本物の人だかり。
CGがなかった時代に比べれば、安全面を工夫されているだろうが、暴徒を先導する者たちの怒号は中々のもの。

欲望に狩られて暴動に参加した者たちに復讐する。
ニュースでは数字で処理され、流されがちな不特定多数。犠牲者の気持ちを考えられる適切なアイデアではある。
加害者も、そこまで悪い人達ではないが、無実の人が狙われるよりは罪悪感は和らぐ。

町に宣戦布告しての皆殺し計画で『ノースマン 導かれし復讐者』を彷彿させる。
1年前に死傷者を出しておきながら、今年の祭りをはじめるアメリカよ。

🪓〈中盤〉👂🏻📌
ミステリー+群像劇。
住人の誰が犯人か分からない『スクリーム』の範囲を拡大したような方式。
監督の過去作の偉大さや、ポスターの美しさと裏腹に、オーソドックスなパリピ処刑もの。
まったくワクワクしないのは、マネッコ娯楽映画だから。

仮面をつけ、黒い巡礼者の服を着た犯人が住人をスラッシュしてゆく。
犯人が誰か分からなければ、主人公の影も薄い。
何を基準に見ればいいのか不明なまま、傍観者として意識が彷徨いつづける。
時々斬殺シーンが入るが、一瞬の盛り上がり。
ぼんやりした時間がすぎてゆく。

🤡経営者は常識人。
若い頃は、ギラギラしていたのだろうが、気持ちに余裕があるのだろう、落ち着いている。
子供との接し方もまともで、愛情表現もしっかり。
現代的な成功者の姿を連想させて、妙にリアルだ。
とは言え、搾取する側であり、無意識の罪は大きい。
人件費を削って商売を拡大させてきた報いを受けろ。

監督の年齢に反して、Z世代とおぼしき携帯標準搭載の学生たちが多く登場する。
配信やハッシュタグなど、現代に対応しようと努力した痕跡が見て取れる。
そこに古臭いアイデアをぶち込めば、中の小父さんが飛び出してきたようで、ギャグとして効果的。

🪓〈終盤〉🍗🍽️
沿道の悲鳴で本領発揮。
冒頭の群衆を彷彿させる大量のエキストラを招集。
真っ昼間のパレードを事件に巻き込む。
加害者たちへの復讐縛りが固定観念を生み、町全体に恐怖が広がる解放感。
お約束のはずのマスク縛りも消失して、ルールを破る展開が心地いい。

群衆をテーマにした映画の山場に相応しい絵作りも良好。
現代的なネットの使い方も皮肉が効いて、ベテランが提供する良質なホラーを体験している満足感が得られた。

【映画を振り返って】🛻🎈
冬の寒さを暖める斬殺アイデア集。
ネタが豊富で、出し惜しみなし。玩具のような仕掛けが好きな人ほど楽しめる。
ゴアも激しくて本格的。実際に人が被害にあっているように完成度が高い。
何より、殺陣を楽しんでいるような監督の人格が怖くて、寒気がした。

その分、物語は皆無に等しいので、ポップコンムービーとして割り切るのが吉。
ここまでメッセージ性がないと逆に清々しい。
上映時間が経つのも一瞬だし、見終わった後も「何だったんだ」のような消失感。
ただ、犠牲者の配分に関しては、若干不完全燃焼なのが気になる。
この嫌な感覚が残るのも、持ち味だろう。

🎁知らぬが仏。
「うわ。犯人がいる」
2周目を迎えると、犯人が住人の中に溶け込んだ状態で話が進むので、怖さが増して2度美味しい。
登場人物たちの未来を知っているからこそ、神様視点で楽しめる。
物語も円環していて、冷静に組み上げられた映画だと分かる。

1周目だと全体が把握できなくて「そこまで悪い人たちじゃない」とノリにくいが、周回すると、きっちりキャライベが構築されている効果で「復讐されても仕方ない」と気持ちが変化した。
映画体験を通して、各キャラの心情が理解できているので、犠牲者が可哀想で感情も高ぶる。
間を開けて記憶を飛ばせば、登場人物の多さはプラスに働き、何周も楽しめるだろう。

作物の収穫に感謝するはずの祭りが、ブラックフライデーで買い物に狂う人々。そんな中でロス監督が発売した血塗れの新商品。
本作は好評を博し、来年にはつづきが出るらしいので、今から到着が楽しみ。
ジョン・カーヴァーが、新しいホリデーシーズンの顔として、世間を賑わせる日が来るのかも。
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