マインド亀

アメリカン・フィクションのマインド亀のレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.5
アカデミー作品賞ノミネート作品が、まさかのアマプラ配信スルー!

●めちゃくちゃ面白かったです!!
『ウォッチメン』の脚本家が監督初挑戦でいきなりノミネート!?も納得の仕上がり。監督によると、脚本家というのは、脚本を書いている段階で、頭の中で服装や部屋、話し方など監督の視点で思考していることが多い、とのことで、とはいえこれだけ完成度の高い作品に仕上げるにはやはりビジョンの実現に向けた熱意とコントロール力があってこそ。今後に期待できる監督だと思います。

●今作は、作品づくりに関わる中で、ポリコレ的なコントロールのバカらしさや、ステレオタイプ的な人種の姿を切望する人々の滑稽さを描いたコメディなんですが、これがまた最も多様性や平等性のバランス取りに苦心しているアカデミー賞にノミネートしているのがなんとも皮肉。本作でも文学賞の審査員の人種のバランスを取ったり、審査する作品を全部見るべきかどうかの議論を始めたりするあたり、なかなかアカデミー会員に取っては他人事ではない話でしょうね(笑)

●しかしながら今作は、珍騒動でワチャワチャなコメディ!を想像すると、思ったより落ち着いた話かもしれません。
むしろメインの話は、彼の家族や彼の恋人の話であり、そこにはお金の問題や認知症の母の介護、兄妹の死、父の不倫や彼女との意見の相違など、人種とは関係のない極めてパーソナルで普遍的な、結構ヘビーな内容の悩みの話が丁寧に語られます。主人公は色々と上から目線で皮肉ばかりのインテリキャラなんですが、介護を任しっぱなしにしていた妹の死を境に否応なく家族と向き合うことになります。新しくできた彼女ともどのように着地するか。本の賞レースの審査や、成り済ましにおけるドタバタへのストレスが彼を変えていくのですが、彼の周囲の人々は基本的には彼にすごく優しいと思うんですよね。彼自身も家族と向き合うことでとてももともとの優しい人柄がにじみ出てる気がします。なのでものすごく落ち着いて安心して観られる映画化になってると思います。

●その物語に風刺的で爆笑のスパイスとなっているのが、ヤケクソに書いた黒人ギャングのでっち上げ実録犯罪小説の作者に成りすます話。もともとインテリな彼が、電話口で「黒人っぽい」話し方に切り替える瞬間の可笑しみが秀逸です。
映画監督との話し合いの途中に退席したり、挙句の果てに「こんな茶番終わらせてやる!」としてとった無茶苦茶な行動が反対に大ウケ。その年の小説大賞に選ばれるまでになるのです。頭を抱えて悩む彼が非常に面白い。思わず爆笑してしまいました。
想像してみてください。差別される側を解かろうとして、ステレオタイプなメガネで見てしまっていることを。それが新たな差別を生むことを。「これこそリアルな黒人だ!」なんて声高に叫んで真実に目を向けられないことの愚かさを。それは黒人だけでなく、日本でもあらゆる外国人や貧困層や難民などに向けられる視線にも当てはまることだと思います。

●また可笑しいのが、その審査員をしなければならない彼の苦悩。そこでまた、同じくライバルの話を受容していきながら、物語の創作にどういう向き合い方をするのが「リアルなフィクション」なのかを考えていくんです。そしてここからどんなラストに向かってどういう着地をみせるのか。アメリカン「フィクション」と言うだけあってなかなか楽しい結末でした。いやもう本当に好きになりました。アカデミー賞前に配信で見ることのできる幸せ。いや、できれば映画館でみたかったですけど、是非是非観てほしい一作です!
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