ソウキチ

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のソウキチのレビュー・感想・評価

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十代の当時に近所のイオンモールのヴィレッジヴァンガードに足繁く通い、平積みされた『素晴らしい世界』を手に取った時から、逆張りサブカルクソ野郎だった自分にとって浅野いにおは、その才能を認めつつも適切な距離をとってきた作家だった。

今回の原作の連載が始まった頃の自分は映画漬けで漫画自体から離れていて、少し興味はありながらも未読のままここまできた。というわけで自分にとって今回の映画が『デデデデ』初見になるのだが、浅野いにおという作家が有象無象のサブカル界隈に埋もれず、20年余りも生き残ったわけがようやく素直にわかることができた。

東京上空に浮かぶ謎のUFO。言うまでもなくパンデミックや自然災害と原発、軍事的危機、経済不況の象徴である。可視化されたメメントモリの下で、それでも少女たちはめちゃくちゃ青春する。この国の未来に何の希望も持てないというのに、呑気に青春することしかできない。この「救われなさ」と「開き直るしかなさ」が共存する感覚。エヴァンゲリオンからなるセカイ系の拗ねた鬱屈とは明らかにフェーズが違う、若者たちのあっけらかんとした絶望。

浅野いにおは、わざわざアップデートなんかしなくても、自分が持て囃される界隈で永住することができる立場だった筈。にも関わらず80年生まれのサブカル漫画の寵児が、この現代の感覚を体得してこの上なくリアルに描写できることは並大抵のことではないと思う。

今回アニメーションならではの魅力として一番に浮かぶのが、主演2人の本職声優顔負けの表現力。特にあのちゃんの声の多彩さにはビビった。なめててすみませんという気持ちになりました。このあと後章どうなるのかとても楽しみです。
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