マインド亀

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のマインド亀のレビュー・感想・評価

4.0
原作以上に感情移入しやすくなった、理想的なアニメ化!終わりなき日常を破壊(デストラクション)してくる「絶対」な体験!

●漫画原作『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、連載時はかなり長い間週刊で追いかけてましたが、気を抜いた隙に見逃してしまって終盤どうなってたかちょっとうやむやになっていました。多分この本作「前章」部分はちゃんと読んでました。本作品はおそらくちょいちょいエピソードをオミットしコンパクトにしながらも、かなり原作をきっちり忠実になぞってはいます。なので原作では登場人物が多くあちこちにエピソードが飛んで少々冗長だった部分がなくなり、門出とおんたんのエピソードに焦点を絞ってるので、コンパクトになって原作より良かったと思います!ちゃんとそのためにエピソードの入れ替えをきっちりやってるし、そのおかげで原作ではドライに流された中盤の悲劇がめちゃくちゃ際立って泣けました。決して演出が原作よりウェットになったわけではないのですが、焦点を当てるべき登場人物がわかりやすくなったおかげで感情移入しやすくなったんですね。

●なにせ原作の緻密に書き込まれた世界やキャラクターの作画がほぼそのまんま再現されているので原作ファンにも安心かつこの絵がグリグリ動くんだと言うアニメーションならではの感動が味わえます。それそれもそのはず、原作者浅野いにおがきっちりカットのチェックを行ったりエピソードの絵コンテを書いたり、『THE FIRST SLAM DUNK』の井上雄彦に近い力の入れ方をしているんですね。また、漫画の作画にかなりデジタルを取り入れた書き方をしてるんですが、その時使用したマシーンや部屋などの3Dデータをそのまま使用したり、原作のロケ時の風景写真データから再ロケハンしてその周囲をさらに作り込んだりした徹底ぶり。(この手法を『GANTZ』のアニメ化にGONZOがやってくれてたらなあという泣き言はこのへんで…)
確かNHKで放映された、浅野いにおの作画風景を撮った『漫勉』では、木魚や灰皿を3Dスキャンして宇宙人の飛行物体に変形させて描いていていましたが、ユーモラスかつオリジナリティあふれるマシーンが本作ではそのまんまスクリーンに現れてグリグリ動いていたのは本当に感動。アニメならではのエモーションになってました。

●本作は東日本大震災を意識して描かれ、その時の日本人の精神状態や社会情勢、政治不信などがドライに取り入れられていますが、その連載中にコロナ禍へ突入し、その時蔓延した恐怖感、過激化する陰謀論にもオーバーラップしていきます。さらに本作の上映時の今、この物語の最も人間の醜い部分が、ガザ侵攻や難民問題、陰謀論やテロリズムなどの国際情勢とも重なってしまっているように思いました。それだけこの原作が普遍的な人間の物語を描いていた作品なんです。そしてこのヘビーなテーマをテンポ良く、ポップに、チャーミングに、そして全方位的に毒舌たっぷりに面白く描いているところを、アニメでは忠実以上にいきいきと際立ててくれている気がします。決して説明的なセリフやモノローグもなく、ドライなのにエモーショナルなんですよね。
また、ほとんど何も変わらない、いや変えられない日常が、天変地異や戦争やそれに匹敵する現象などのハードな非日常との対比で描かれ、それはカメラの映像やSNSを通してでしか情報として戦争や災害やあらゆる差別を知ることが出来ない我々と同じ現実をヒリヒリと知らしめて来るんですよね。経験していないのに知ったようなふりをしている我々、そして正義という圧倒的な暴力を振るう我々。とても可愛らしくてユーモラスなキャラクター達が、いきいきと、その傷をえぐってくれます。

●あとですね、原作と同じく裏『ドラえもん』としての要素がありますし、大人になってから感じる『ドラえもん』の問題点をしっかりあぶり出してくれるのも最高です。どっちかって言うと絵柄はA先生味が強い気がしますけども(笑)
(余談ですが、作品内コミックとしての絵柄の完成度は秀逸!ちゃんと別の作者が描いたような絵柄になってます。浦沢直樹の『MONSTER』内の絵本はどう見ても浦沢直樹の絵だったからなあ…)
本作の『イソベやん』のデべ子が使った道具の顛末はパンフレットで読めるんですが、なかなかに恐怖の結末なので是非読んでほしいですね。グッズも売れているようで、イソベやんリュックは見てみたかったのですが、ソッコーで売り切れてましたね…。
ちなみに、デべ子の声はTARAKOさんです。ちゃんと作品の最後にTARAKOさんに対する哀悼のメッセージが出ます。

●原作では面白すぎるおんたんと門出のたっぷりのギャグを入れたそ長めで早口なセリフをきっちりテンポよく喋ってくれるんです。そこで声優をしている幾田りらさんとあのちゃんの、この声優方面に振り切った才能の素晴らしさ!正直ここまでとは思っていませんでした。小学生編にもきっちり性格や年齢の表現ができてて、特におんたんはあのちゃんじゃないとだめだった!というくらいのハマりっぷりでした。本作のエンディングテーマのあのちゃんの作詞も素晴らしい。本当に才能あふれるアーティストだと思いました。

●5月公開の後章のラストは浅野いにお自らが絵コンテを描き、原作とは違うラストらしいので、原作をもう一度読んでみようかな…と思いました。原作のファンも、未読の方も是非是非見てほしい作品です!ちょうど三体ブームも重なり、侵略エイリアンの作品に触れる機会が多い今だからこそ、後章に備えて是非観てください!
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