カツマ

Saltburnのカツマのレビュー・感想・評価

Saltburn(2023年製作の映画)
4.4
それは果たして愛だったのか?それとも狂気のような執着か。暴走する感情の発露、ヌメヌメと湿り気を帯びた欲情の残骸。あまりにも豪華絢爛な屋敷の中で、小さな蛾は飛び回り、美しい灯りに近づいてはバチバチと不快な音を立てていた。さぁ、宴が始ろうとしている。翌朝がどんな朝なのか、想像もつかないままに。

今作は『プロミシング・ヤング・ウーマン』でオスカーの脚本賞を獲得した、エメラルド・フェネル監督によるキャリア二本目の長編映画である。ひっそりとAmazonプライムで配信されていたが、内容はなかなかに激烈。シンプルに伝えるとバリー・コーガン映画であり、彼のぶっ飛んだ演技を心ゆくまで堪能できる作品である。極端なブルジョワ階級の中に入り込んだ、根暗なオタク青年の心の奥に巣食う闇とは?思いのほかその本性はドス黒い色味を帯びていた。

〜あらすじ〜

オックスフォード大学に奨学生として入学したオリヴァーは、なかなか友達が出来ず、別に仲良くしたいわけではない同じボッチの同級生と何となくつるんでいるような日々。周りはブルジョワ階級ばかりで、奨学生のオリヴァーは階級的にも周囲との隔たりがあった。そんな彼が見つめていたのは、ブルジョワ階級の中心的人物で、容姿端麗、誰からも注目されてしまうフィリックスであった。オリヴァーとフィリックスはあまりにも違い過ぎた。そのため、フィリックスと友達になりたいオリヴァーはそのきっかけを作ることができずにいた。
が、自転車がパンクして途方に暮れているフィリックスに遭遇したオリヴァーは、自分の自転車を彼に貸してあげたことで、フィリックスから気に入られるようになる。相変わらず周囲のブルジョワ階級から煙たがられるオリヴァーだが、フィリックスだけは彼を特別な友人と認めてくれていて・・。

〜見どころと感想〜

『プロミシング・ヤング・ウーマン』は優しさのカケラもない男たちへの強烈なカウンターパンチだったが、今作ではその矛先がブルジョワ階級へと向けられている。構造は『プロミシング・ヤング・ウーマン』に似ているため、クライマックスまでに渦巻いている何かが弾けることを予想するのは容易だった。が、それは想像以上に狂気の沙汰。酒池肉林の青春時代の終わりには、気味が悪いほどの後味が待っていた。それはもう青過ぎて青くはない。ドス黒い濁った色へと変色していた。

今作は主演のバリー・コーガンありきの映画だと思う。それほどに彼の個性を最大限に引き出している役柄だし、とにかく変態、変質、気色悪いの三原色でドロドロに劇中を塗り潰していった。共演には売れっ子の若手俳優を揃えており、一人目はフィリックス役のジェイコブ・エロルディ。彼は『キスから始まる物語』シリーズから飛躍して、来年日本公開予定のソフィア・コッポラ作品のメインキャストへと抜擢されるなど、今後更に話題作への進出が期待できる。そして、もう一人がファーリー役のアーチー・マデクウィで、彼は『ミッドサマー』から始まり、最近では『グランツーリスモ』でメインを務めるほどになった。

更にベテランキャストの演技派にはロザムンド・パイクを抜擢するという豪華ブッキング。ワンポイントの友情出演には『プロミシング・ヤング・ウーマン』で主演を務めたキャリー・マリガンがサラッと登場している。

前半の学生生活編は布石で、まるで青春映画のよう。だが、中盤、フィリックスの実家のソルトバーンに舞台を移してから今作の本領は発揮される。バリー・コーガン演じるオリヴァーの気持ち悪さは異常なため、万人には間違いなくお勧めできない作品だ。クィア映画という見方もできるけれど、スリラーまたはサスペンス要素も強く、何が起こるのか分からないゾクゾク感を楽しみたい人には向いている。映画としてはだいぶ面白い。ラストの怒涛の畳みかけまで、色々我慢しながらも刮目してほしい作品だ。

〜あとがき〜

エメラルド・フェネルの新作がひっそりAmazonプライムにきている!?と驚いたのも束の間、もう色んな意味でヤバそうな匂いがぷんぷんしたもので、早速の鑑賞です。まぁ、これがまた予想を上回ってくる変態具合。バリー・コーガン、楽しそうに演じてます。

個人的には『プロミシング・ヤング・ウーマン』より好きでした。こっちの方があんまりモヤっとしないというか、性描写はかなり気持ち悪いですけど、映画としては面白かったです。劇場公開がないのが残念。大きなスクリーンでこの画はかなりキツいだろうなぁと思いながら観たものでした笑
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