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アイアンクローのsinginggizmoのレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.8
プロレスの知識や興味ゼロで鑑賞したけど、普遍的な親子関係や兄弟の絆を描いたヒューマンドラマで良かった。

プロレスラーとしてチャンピオンになりスターになることが、エリック家の男として1番の成功であり幸せであると疑わない父親の元で、知らず知らずのうちにその思考を刷り込まれて育った兄弟達。
彼らが、本当に素直で純粋ないい子達だから、防げたかもしれない不幸な死が、痛ましく辛い。

ドラマとしては全体に抑えた演出で、父親を過剰に毒親には描いていないが、毎日の生活でいつの間にか作り上げられた一個の価値観に縛られ、反抗したり別の世界を探すという選択肢さえ知らずに、気づいた時には限界まで追い込まれていたんだと思うと怖い。
父親も、昔は音楽に親しんでいたなどのエピソードが語られるので、彼自身も有害な男性性的価値観が優位だった時代にのみこまれた人だったのだろうか。
個人を責めるのではなく、あくまで一個の有害な価値観や時代の空気に囚われることの怖さを描いていると思った。
しかし、あんなに子ども達が死んでいくのだから、もうちょっと気遣いとか支えてあげることができなかっただろうか、と思わずにいられない。

ケビンが悩みを相談した時に「兄弟で解決しなさい」と突き放し、話も聞かない父母の対応が、子供達を救えなかったひとつの要因として描かれていると思う。

亡くなった兄弟達が、父親のいない世界で再会することができたシーンには救われた。
せめて別の世界では、プレッシャーから解放され、好きなように無理せず生きてほしいなと思う。
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