ぶみ

ある閉ざされた雪の山荘でのぶみのレビュー・感想・評価

ある閉ざされた雪の山荘で(2024年製作の映画)
3.5
演技か、事件か。

東野圭吾が上梓した同名小説を、飯塚健監督、重岡大毅主演により映像化したミステリ。
新作舞台の主演の座を争う最終オーディションとして、ペンションに集められた劇団メンバー等の姿を描く。
原作は単行本を所持しており、読了済みではあるものの、約30年前のことであるため、完璧に内容を忘れている状態での鑑賞。
主人公となる劇団「水許」の新メンバー・久我和幸を重岡、旧来からのメンバーで、役を奪われた女優・中西貴子を中条あやみ、クセ強俳優・田所義雄を岡山天音、お嬢様女優・元村由梨江を西野七瀬、ワガママ女優・笠原温子を堀田真由、劇団リーダー・雨宮恭介を戸塚純貴、天才女優・麻倉雅美を森川葵、トップ俳優・本多雄一を間宮祥太朗が演じており、登場人物はほぼ以上と言っても過言ではない。
物語は、劇団員が集められたペンションで、「大雪で閉ざされた雪の山荘」という架空のシチュエーションのもと四日間行われる合宿の最中、メンバーが一人ずつ消えていくという展開になるのだが、最大の肝は、やはりその設定。
冒頭、ペンション付近のバス停に到着するシーンでスタートするため、明らかに海岸沿いに所在しており、人里離れているわけでもないのに対し、前述のような架空の設定がなされているため、事実上、外部とは連絡が取れないクローズド・サークルものとなっている。
また、予告編において男性キャストが『何で本物の血がついてんだよ!』と叫ぶシーンが印象的である反面、現実にそんな説明的な台詞を言うことなんてあるのかと、またまた全てを言葉で説明してくれる邦画の悪い点が全面的に出てしまった作品なのではと勘繰っていたのだが、考えてみれば、登場人物が全員劇団員であるため、それが現実なのか、何かを演じているのか、はたまた台詞を喋らされているのか、観る側を迷宮入りさせることに。
ただ、主演の重岡に関しては、以前観た中田秀夫監督『禁じられた遊び』で橋本環奈と共演した際には、橋本のあまりにもバリエーションの少ないテンプレ演技に気を取られてしまったため、気にはならなかったのだが、間宮、岡山、戸塚という若手個性派俳優陣に挟まれてしまうと、やはり一段見劣りしてしまっていたのが残念だったため、今後に期待したいところ。
ちなみに、東野圭吾は、お気に入り作家の一人であり、特にベストセラー作家への階段を登り始めた当時の作品は、文庫ではなく、ハードカバー本を初版で買うべく、発売日を楽しみにして本屋へ通っていたのがつい昨日のことのよう。
そして、東野作品の私的ナンバーワンは、デビュー作である『放課後』で、青春ミステリとして、今でも確かな輝きを放っている内容であり、特にその動機については、かなりの衝撃で、今でも忘れられないもの。
閑話休題。
冒頭書いたように、内容は全く覚えていない状態での鑑賞となったのだが、いかにもフィクション然とした設定により、現実との境界線を曖昧模糊とした展開は、深く考えてしまうとはてなマークがつく部分はあるものの十分楽しめる内容であり、もう一度原作を読み直してみたくなったとともに、同じく、当時の余韻に浸ったのか、はたまた、その真相を紐解いている人が多かったのか、公開初日のレイトショーで、そこそこ人数が入っていたのにも関わらず、エンドロール中、誰一人として席を立つことがなかったのが好印象だった一作。

謎のアドリブいらないよ。
ぶみ

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