Cineman

ウェイン・ショーター 無重力の世界のCinemanのレビュー・感想・評価

4.0
『重力のない世界』
ドーセイ・アラヴィ監督
2023年公開 アメリカ
鑑賞日 2023年9月13日 Amazon

ウエイン・ショーターは2023年3月2日に逝去したジャズ・サックス・プレイヤー&作曲家。
8月25日、存命であれば90歳の誕生日にAmazonで配信が開始されたウエインの評伝映画だ。
3パート全188分のドキュメンタリー番組だ。

ジャズに馴染みのない人にとってはウエイン・ショーターって誰?だろうけど、
ウエインはサックス奏者&作曲家として知られているジャズ界の巨人の一人だ。

まずは簡単な経歴を。
1983年8月25日アメリカのニュージャージー州ニューアーク生まれ。

幼少期は絵を描いたり映画を観ることが大好きだった。
12歳のときに市の美術展で優勝し15歳で長編漫画を描きあげる。
教師の勧めでアメリカ合衆国初の公立芸術高校「ニューアークアーツ高校」に進学したが、
無断欠席で問題を起こし音楽理論のクラスに出席することになる。
当初クラリネットのレッスンを受けていたがテナー・サックスに転向しトランペット奏者の兄アランらとともにグループを組んで演奏を始めた。

1952年ニューヨーク大学に進学しジョン・コルトレーンと練習を共にする機会があり影響を受けた。
1956年に卒業してから演奏活動を開始し演奏スピードとテクニックから「ニューアークの閃光」と呼ばれるようになる。
その後ホレス・シルバーなどと演奏していたが徴兵のため2年間の陸軍生活を終えメイナード・ファーガソンのバンドに参加。このときに後にウエザー・レポートを一緒に立ち上げるジョー・ザヴィヌルと出会っている。

1959年にアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズに参加。
この頃はジャズ・メッセンジャーズの黄金期で『チュニジアの夜』(1961)『モザイク』(1961)『キャラヴァン』(1962)『スリー・ブラインド・マイス』(1962)など傑作アルバムの録音に参加している。

ぼくが友人かにジャズの洗礼を受けてから何日目かに買った中古レコードが「キャラバン/アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ」だった。
今思い起こしてみると三管ジャズ・メッセンジャーズのそのアルバムがウエイン・ショーターとの出会いということになる。

その後のマイルスの黄金のカルテット時代もジョー・ザヴィヌルと立ち上げたウエザー・レポート時代も素晴らしいけどぼくはウエインのブルーノート時代のリーダー・アルバムが好きだ。
『ジュジュ』(1964)、『スピーク・ノー・イーヴル』(1966)、『アダムス・アップル』(1967)、『スーパー・ノヴァ』(1969)などなど。

ウエインは1970年にザヴィヌルとウエザーレポートを結成し1986年に脱退した。
その間にカルロス・サンタナ、ジョニ・ミッチェル、スティーリー・ダンを始めとして多くのロック、ポップ・スターのアルバムに参加して素晴らしいソロを聴かせてくれた。

グラミー賞を始めとして多くの音楽賞を受賞したウエインは 2000年にダニーロ・ペレス、ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドと共に新生アコースティック・カルテットを結成しライブ活動を続けていたことをこのドキュメンタリーで知った。

ドキュメンタリーに収録されているカルテットの演奏が素晴らしいのでyutubeで探した。
「フットプリンツ〜ベスト・ライヴ!」(2002)「アレグリア」(2003)「ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー」(2005)そしてオルフェウス室内管弦楽団と共演した「エマノン」(2018)。
ウエイン・ショーターが歳を重ねても枯れることなく新しい音・響き・音楽を模索している凛々しい響きが聴けたことが嬉しかった。
1970年に(時代の音楽としての)ジャズは死んでしまったけれどマイルス・デイビスと彼の門下生は常に次代のジャズを模索していることが確認できる刺激的な音楽だった。

『無重力の世界』は3つのパートに分かれている。
パート1
ウェインの幼少期の世界。
ウエインの才能を信じた母親が彼に与えた影響。
ウエインのコミックや映画などヴィジュアル・アートへの愛から音楽への変遷。
ジョン・コルトレーンの後任としてショーターに白羽の矢をたてたマイルスからのラブコール。

パート2
ショーターの私生活は?音楽は?。
いくつかのトラウマやアルコール中毒との闘い。
仏教との出会い。
結婚生活や知的障害の娘を抱えた私生活だったが最も商業的に成功した時期のこと。

パート3
ウェイン・ショーターの一日。
観客は、作曲は、コラボレーションは、カルテットとの世界ツアーは・・・。
音、音楽が社会を変えることができるかというウエインの使命。

まずはパート1だけと観始めたが面白くてやめられず188分ぶっ続けで観てしまった。
ジャズ好きの人は当たり前としてジャズに馴染みのない人が観ても十分に楽しめる作品だ。

【5 star rating】
☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
Cineman

Cineman