サマータイムブルース

人間の境界のサマータイムブルースのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.0
ベラルーシとポーランドの国境でこんなことが起きていたなんて!!
この物語はフィクションですが、描かれている出来事は入念な調査や取材に基づいているとのことです
見てる方もあまりのリアルさにまるでドキュメンタリーを見ているような気分になります

冒頭、山深い緑の森が上空から写しだされます
そこだけカラーであとはずっとモノクロ
この映画はモノクロがよく似合う、BGMもなし、ずっと漂う不穏な空気

飛行機でベラルーシにやって来たのは、妻が妊娠中の夫婦と、赤ちゃんを含む子供3人、そして年老いた父親の6人のシリア人家族です
彼らはシリア難民です
彼ら以外でも難民はあちこちで見かけます
ベラルーシルートならば安全にEUに入れるという情報を信じ、彼らはポーランドに入りました

ところがポーランドの武装した国境警備隊から非人道的な扱いを受け、ベラルーシに追い返されてしまいます
すると今度はベラルーシの兵士からポーランドに追いやられ、その繰り返しが続きます
国境線がセンターネットで、まるでピンポン玉のように行ったり来たり、難民の押し付け合戦が始まります
虐待や、自然の脅威、寒さ、飢え、渇きなどから彼らはみるみる弱って行きます

そのシリア人難民家族に加え、国境の森に関わる支援活動家や国境警備隊の青年など、複数の視点からこの問題を抉り出します

森のすぐそばに暮らす精神科医のユリア(マヤ・オスタシェフスカさん)はポーランド警察によって難民家族が病院から強制連行されようとしているのを目の当たりにし、そのあまりの酷さに支援グループに参加するようになります

また、国境警備隊が、上官から、難民は悪である、絶対に人を通すなと厳しく指導されているにもかかわらず、それを疑念に思い、難民が検問を突破するのを見逃してくれる心優しい兵士の姿も描かれます

ベラルーシ側は“ルカシェンコの生きた銃弾”として、ポーランドを混乱に陥れるため人間兵器として難民を大量に送りつけた、という事実があるようです

ポーランド政府はこの映画を阻止するため、“不都合な真実”を完全なるでっち上げと非難し、あらゆる手段で映画公開を妨害して来たそうです
ポーランド政府の圧力に屈せず、命の危険を顧みないで映画を作成したアグニエシュカ・ホランド監督、公開に踏み切った独立系映画会社に賛辞を送りたいです

また、映画の最後にポーランドがウクライナの難民を大量に受け入れている事実も描かれていて、世界的な目があるのか知らんけど、中東とウクライナでは随分差があるもんだと複雑な思いがしました

日本は島国で、陸続きの国境はないので他人事のように思いがちですが、難民の数は年々増え続けていて、考えて行かなければならない問題だと思いました