岩嵜修平

悪は存在しないの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.1
圧巻。終始、映画を観る快楽に満ちている。長回しを多用し、何も起こっていないように見えるシーンの連続にも関わらず、驚かされ続ける。濱口竜介らしい、感情を込めない発話が繰り返されるのに心揺さぶられる。石橋英子の劇伴も素晴らしく、背景を超えて映画自体に一体化している。

『悪は存在しない』初日舞台挨拶で観たが、トークの雰囲気(毎回、濱口竜介監督の話振りを見る度に、この方からこんな物語が…!と驚かされる)の柔らかさとは対照的な、緊張しっ放しの106分。導入が巧みで、あの音と予測不能な移動の連続があるからこそ何が起こるか分からず、怖い。自然への畏れが。

三宅唱しかり深田晃司しかり杉田協士しかり清原惟しかり金子由里奈しかり、世界で評価される日本の優れた映画監督は、日本人にとっても発見のある新たな視線を入れ込む。それは霊であったり自然そのものだったりするのだが、本作の、車の後ろからのショットは何だ…。最初と最後の森の中の長回しは…。

大美賀均は『偶然と想像』車両部からの大抜擢、西川玲はオーディションでの起用、小坂竜士は元俳優ながらこちらも『ドライブ〜』車両部からの抜擢、渋谷采郁は『ハッピーアワー』からの起用と、それぞれに独特のキャスティングだが、他の俳優も含めて、役者本人の素が作品に出ているように感じさせる。

銃声や血の描写はあるが、直接的にショッキングなシーンは無いので誰でも安心して観られるし、何回でも観たくなる。キャストが、ほぼ無名の役者(非役者も含め)さんたちとは言え、これをシネコンでかけないのは勿体なさ過ぎると思うぞ…。音も最高なので音響に自信のある全ての映画館でかけて欲しい。

『GIFT』こそ本編なので、あのタイミングで石橋さんの演奏含めて観られて良かったけど、正直、話の展開を知らずに初見で『悪は存在しない』を観たかった気持ちはあるな…。何も知らずに観たら、ラストの展開は、本当に"quoi?"だったと思う。そして、観終わった後も解釈が如何様にもある。省略が絶妙。
岩嵜修平

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