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悪は存在しないのよーぴのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.4
静寂と騒音、自然と人工、断絶と繋がり、上流と下流。石橋英子の音楽と人間の以外のモノと一体化するカメラによってこの対比がわかりやすく示される。「水は低いところに流れる」という言葉の通り、資本主義における上流(コンサル会社や親企業)で決められた杜撰な計画の悪影響は彼らが感知すらしない下流(地元の人々)に流れていく。ひりつく緊張感で満たされた説明会のシーンや企業側の二人の車での会話シーンなど、カメラを据えて、あとは人間の存在感と言葉の力を信じ切る濱口竜介の演出は、やっぱりパワフル。『偶然と想像』以降のユーモアセンスもたっぷりに感じた。「それって、味じゃないですよね。のシーンが最高。みんな爆笑してた。

地元の人とは言えど、主人公から語られる通り彼らも自然からしたら全くの部外者であり、彼らもまだ、人智の及ばない自然との対話の途中なのだと思う。そしてその関係は、芸能事務所の二人と、主人公ら地元民との関係に重なる。決して分かり合えない他者性をもつ者との対峙と、その悲劇的な結末を「自然対人間」「部外者対当事者」という二つのレイヤーで描いたのが、あのラストなのだと解釈した。傷ついた鹿は、あの主人公なのだろう。
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