ミーハー女子大生

市子のミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.4
【あらすじ】
プロポーズされた翌日に突如失踪した女性の壮絶な半生を描く。
3年間共に暮らしてきた恋人・長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズされた翌日、突如姿を消した川辺市子(杉咲花)。
呆然とする義則の前に彼女を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)が現れ、信じ難い話を明かす。
市子の行方を追って、義則は彼女と関わりのあった人々に話を聞くうち、彼女が名前や年齢を偽っていたことが明らかになっていく。
さらに捜索を続ける義則は、市子が生きてきた壮絶な過去、そして衝撃的な事実を知る。

【感想】
下記のように、市子の生涯は不幸の「てんこ盛り」である。
しかし、この映画は、市子を通じて社会に問題を提起しているのか、それとも、サスペンスとしての面白さを狙っているのか?

〔不幸その1〕
母は、市子を失踪した夫の子としたくなかったため、出生届を出さなかった。
このため川辺市子は無戸籍者となった。

〔不幸その2〕
市子には、難病を患う妹、月子がいた。
妹には戸籍があるので、どうやら母の彼氏、小泉(*)の子のようだ(小泉が月子を認知したか、または父親欄ブランクで届け出た。いずれにせよ前夫との離婚は成立済)。
市子は、小学生のころから月子を名乗っているが、ということは月子存命中から月子になりすましていたことになる。その後、看護疲れから月子の人工呼吸器を外し、遺体を山中に埋める。

(*)職業はソーシャルワーカー。その知識を活かして、二重に存在する月子を、一方は学校に通わせ、一方は難病患者として行政の支援を受けさせるという、離れ業を演じた。

〔不幸その3〕
市子は、小泉にレイプされそうになり、彼を殺してしまう。
そして、都合よく居合わせたストーカー君と協力して、鉄道自殺に見せかけた。

その後は、再び「市子」を名乗り生きていく。(戸籍上では月子は生きているのだから、月子を名乗ればよいのに、そうしなかったのは、「難病でしたが全快しました」という嘘には無理があるからだろう)。
そして「市子」としてプロポーズを受ける。
ところが、山中から遺体が発見され、難病の痕跡から月子のものと推定されてから、市子の周辺に警察の手が伸びる。
さあ、市子は絶体絶命!

そこに、なんともタイミング良く自殺願望の女性が戸籍を携えて現れる。
この女性の自殺により戸籍が手に入った。
ついでにストーカー君も、「市子を守れるのは自分しかいない」という思い込みを利用して、始末してしまう(と、私は解釈した)。

これで、市子と川辺家を結びつけるものはなくなり、問題は一気に解決した!?。
しかし、母親や友人は存命なのだから、顔を整形したり、誰も自分を知らない土地に行くなりしないと、すぐバレると思うけどなあ。
サスペンスにしては、穴の多い作品だ。

一方、①無戸籍者問題、②難病ケアラー、③継父による性的虐待など、社会的な問題提起という観点から見ても、不幸が重なり過ぎて「本当にこんな人物がいるのか」と感じさせ、現実感がない。

そもそも、「マイナスとマイナスを掛け算するとプラスになる」じゃあるまいし、「一つの不幸(妹の難病)をもって他の不幸(無国籍問題)を解決する」という発想が浅ましい。
妹が死んだ後でさえ、女性の自殺という不幸をもって、無国籍状態を脱しようとしている。
結局のところ、「不幸」をサスペンスの道具立てに使っているだけであり、実際にこれらの問題に直面している人たちが観たら、憤りさえ感じるのではないか。
演技は素晴らしいからこそ少し残念。

ストーリー 3
演出 5
音楽 3
印象 3
独創性 3
関心度 4
総合 3.4

6/2024