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市子のギルドのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.4
【パンドラの箱を開けた人々の余波、箱の中身にあった自由の追憶】
■あらすじ
川辺市子(杉咲 花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。
途⽅に暮れる⻑⾕川の元に訪れたのは、市⼦を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)。
後藤は、⻑⾕川の⽬の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。
市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生…と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。
そんな中、長谷川は部屋で一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。
捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。

■みどころ
とある女性が失踪したお話。
映画は川辺市子の行方を追う長谷川の捜査劇を映すが、様々な時系列・場所で市子と繋がった人との出会い・証言を通じて「川辺市子」の歴史を解体していく構成で進行する。
撮影に春木康輔氏が参画している影響なのか、全体的に片山慎三監督「岬の兄妹」の弱者にスポットライトを当てた退廃的ながらもどこかノスタルジーな質感をしていて、そこは好き。

映画は市子の鼻歌から始まり、山で白骨化した遺体のニュースという不穏な空気から始まり長谷川の帰宅を耳にして慌てて市子が逃亡する慌ただしいシーンから始まる。
やがて時系列は戻り、長谷川が市子に結婚のプロポーズをする。それだけでなく長谷川は市子用の着物を用意し、これを着て花火大会に参加しようねと告げる。
再び時系列は市子が失踪した後日に進み、刑事である後藤から市子について聞かれる。
そこから市子の幼少期・高校生・社会人と様々な時系列を観測し、その時系列ごとに関わりのあった人へ長谷川・後藤は接触して川辺市子の行方を追うが…

本作は舞台「川辺市子のために」という作品を原作にした作品だが、一個人の歴史を解体することで彼女に纏う「しがらみ」の足枷感を浮彫にしている。
映画は現在と過去を往来し、川辺市子の表のペルソナ・裏のペルソナを常に暗示していく。人間の多面的な感情・思惑を描きながらも、川辺市子の境遇が一種の”幽霊”で「そこにいるけど、実際にはいない」という矛盾を描く。
彼女の取った行動に脈略の無さがあるミスリードをさせて、実際のところはしがらみから解放されたい自由・過去の市子への隠匿・矛盾を知りながらも誰かに愛される事への喜びを噛みしめたい…といったアンビバレンスさ…もっと言えば人間の理性と本能の折衷を描く。
そこがよくある「しがらみから解放されたい」系の作品とは異なる部分で、川辺市子の幽霊のような境遇と人間の多面的な感情を重ね合わせる技は興味深かったです。
そこによる一定の緊張感が生まれたと感じました。

映画を通じて過去の事件、出生、人間関係からリセットし、新たなアイデンティティとして自由に生きたい人間像は分かるけど、1個人の歴史を解体する捜査劇が謎を提示しては回収の連続でその繋がりも散漫である感じがする。
彼女の歴史があまりにも特異で、その特異点の磁場により市子も市子の周囲もおかしくなったとも取れなくはないが、それにしたってその謎が突拍子が無いのが深くのめり込めなかった部分だと思いました。

あと主題に沿っている展開と言われればそれまでなのだが、それを加味しても自由になるために迷惑をかけまくる…という引継を放り投げて「転職決まったんで引継せずに有給消化しまくりまーすw」な態度で同僚に迷惑をかけまくる的な雰囲気がして好きになれなかった。
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