Omizu

バーヌのOmizuのレビュー・感想・評価

バーヌ(2022年製作の映画)
4.5
アゼルバイジャンの女性監督による長編デビュー作。自ら脚本、主演もつとめている。脚本をビエンナーレ・カレッジ・シネマに認められ制作され、昨年のヴェネツィア映画祭でプレミアされた。

素晴らしい。アゼルバイジャン映画って初めてな気がするけど、こんなにレベル高いのか。監督・脚本・主演のターミナ・ラファエラさん、すごく才能があると思う。デビュー作とは思えない完成度。演技も素晴らしい。

親権をめぐって争い別居中の夫婦だが、目を離した隙に夫が子供をさらってしまう。警察に訴えても「家庭の問題だ」と取り合ってくれない。

この背景にはアゼルバイジャンとアルメニアの領土紛争があり、それと親権争いを重ね合わせる構成が見事。

色んな人に証言を頼みにいくバーヌだが、ことごとく断られる。その過程でこの夫婦のある問題が明らかになっていく。情報の出し方がすごく上手い。

元の家、というか夫の実家(金持ち)で働いている家政婦さんが鍵になっている。ここで背景にある紛争が大きな意味を持って立ち現れる。

家政婦は「これ以上息子を失う母を見たくない」と言う。アゼルバイジャンが領土を取り戻し歓喜する民衆、そこで息子は「僕たち勝ったの?」と。このセリフも深い。何も答えないバーヌ、そして民衆の間を通り過ぎていく家政婦。この描写が素晴らしくスマート。

監督は「世界的なパンデミックの只中にあっても、私たちは国家間の戦争や敵対関係を目の当たりにしています。その根底にあるのは、戦争や憎しみを駆り立てるナショナリズムであり、家父長主義によって生み出され、導かれる思想です。」と述べている。

まさしく映画的な豊かな演出でそのメッセージが伝わってくる。

これは普通に劇場公開レベルだし、今のところ今年ベスト級によかった。この監督、要注目!
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