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ある映画のための覚書のドントのレビュー・感想・評価

ある映画のための覚書(2023年製作の映画)
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 2023年。1898年にベルギーからチリ・アラウカニアへと技師として渡った青年の日記と、原住民の子孫たちの記録や声や口伝などを組み合わせて制作した、えーっと、これはドキュメンタリーと言ってよいのか、まぁドキュメンタリーなのかしら、たぶん。
 日記から作り上げた劇映画的の部分、その劇映画のメイキング的風景、曾孫くらいの人が語る当時の戦い、蜂起した原住民の語り、当時の写真、などがどんどん投げ込まれていく。その投げ込まれ方がたいそう面白い。
 例えば技師役の青年が普段着で線路を歩いていたかと思ってたらカメラが首を振った方向に技師の青年の衣装を着て立っていたり、「その時住民たちが怒ってやって来たんだ!」と言いつつウォーッと迫ってくるのが監督を含めた完全に私服のエキストラのオッサンたちだったり。
 モノクロームの映像な過去現在、虚実の隙間をぬるりと抜けて何やら不思議な雰囲気が漂う。かと言ってふざけているわけではない。原住民の子孫の語りや当時の写真は雄弁すぎるほどに雄弁である。にしても、歴史や真実の一面を掘り出す/彫り出すだけの代物というわけではあるまい、とも思う。
「ドキュメンタリーって、なにかね?」と、菅原文太の顔つきで問われているのではないか、などと考えたりする。何だったら「実話映画」まで視野に入っているかも。引用されているルミエール兄弟の汽車の映像が、「撮っただけ=ドキュメンタリー」に見えてその実、時間も場所もきちっと決めて「意識的に撮られた」代物であるように。ドキュメンタリーとか実録とか言ってるけどそれって実に曖昧で、っていうか事実や過去を描くってこのくらいややこしいことなんじゃないの? と。
 そんな輪郭のぼやけた「ドキュメンタリー」であるにも関わらず、技師の青年の日記から感じられる当惑や哀しみ、原住民の皆さんの怒りや深い嘆きや戸惑い、そういうおおまかな感情は伝わってくる。とは言えそれも我々が勝手にそう思っているだけなのかもしれないが。そのあたりで乗りきれなかった部分もあれど、意欲的で挑発的な作であることは確かである。
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