ドント

訪問、秘密の庭のドントのレビュー・感想・評価

訪問、秘密の庭(2022年製作の映画)
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 2022年。半世紀ほど前のスペインではそれなりに名が知られていたのに現在では忘れ去られた女流画家イザベル。老いてヨボヨボのおばあちゃんになった彼女の現在と半生と芸術観に、こちらも女性で若き映像作家イレーネが迫るドキュメンタリー。イザベルの住む家にある「開かずの間」には何があるのか? そしてイレーネがイザベルを取材する本当の目的とは?
「歴史から消えた伝説の女性画家と彼女の現在」みたいな切り出し方から、作品はいわば「師と弟子の物語」と変容していく。イザベルおばあちゃんはシワシワで、物入れに掴まって歩き、手とか口元とかはプルプルしている。志村けんが演じたひとみ婆さん、あれを思い出してください。あれくらいプルプルしています。
 こんなおばあちゃんにカメラ向けたりして大丈夫かな……などと思っていると中盤から、監督の質問に結構な覇気のある声で語りはじめる。弟子を叱る師匠の如し。「監督が怒鳴るのでイザベルも怒鳴っている。これは失礼なやり方だ」との指摘もあるけれど、断定はできないものの怒鳴るのはイザベルの耳が遠くなっているからかもしれない。「え? あ?」と聞き返す場面も2回くらいあった。そして、耳が遠い人は話し声もデカくなる。
 閑話休題。老イザベルが語ったりやってみせたりする芸術には、ビジュアルや声の影響もあろうが相当な厚みと凄み(よくわからない部分も含めて)があり、詳しいことを聞こうと食い下がり「自分も映画やってるんで……」と言う若き監督を「甘えんな! わかってないね!」と一喝する様子は一定の説得力を有していて迫力がある。
 他方、「師と弟子」の図、終盤のまとめ方、編集や構成などが劇的なもの、つまりドラマ性を求めすぎているような気がする。ここらへんが落とし所か、というのが透けて見えないでもない。ただそれもイザベルから「芸術は簡単に教えられるモンじゃないよ! 自分でやんなさい!」と言われたためとすれば、これもまた弟子として悩んで、巧拙はさておき「作品」として整えた結果とも思える。まぁイザベルも売れないながらも描き続け、今も造形をやっているわけでね。わだかまりを一本の映画にしたイレーネさんも、次、次ですね。不遜に堂々と撮る態度には芯の太さを感じるので、「これが私だ!」という映画、待ってます。なおネコがかわいいネコ映画でもある。
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