Keigo

グリーンフィッシュ 4K レストアのKeigoのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

イ・チャンドン監督作品6作品目。これにて監督の長編作品を全てコンプリート。

イ・チャンドン自身が語るところによると、デビュー作につき諸々の都合を考慮してジャンル映画にしたらしい本作。いわゆるノワールというかヤクザもの。結局今作を最後に観ることになったけど、さすがのイ・チャンドンもデビュー作では多少なり商業的に迎合する姿勢を見せているところに、良い意味で親近感が感じられた。やっぱりイ・チャンドンも人間なんだなと。でもそれと同時に、デビュー作にして後のフィルモグラフィに通ずる監督独自の作家性のようなものの萌芽も、十分に感じられる。


兵役帰りのまだ何者でもない若者の社会との接合点、街の再開発が象徴する社会の進歩から取り残されてしまいそうな自分も含めた家族、ある女に導かれるようにして出会う新しい家族、破綻しそうなアイデンティティを取り繕うための必死の虚勢…

欲望の渦の中で力はより大きな力に飲み込まれ、その力学に自らの手で抗おうとした先でもう後戻りが出来ないことに気付いたのは電話ボックスの中。思い出すのは川に兄弟で行った時に捕りたかった、緑の魚のこと。

何かを手に入れようともがけばもがくほど、幸せから遠ざかっていく。こんなことなら何も無かったあの頃の方がよっぽど幸せだった。まだ引き返せるかもしれない。家族で小さな店をやりたい。そう思ったほんの一握りの希望すら、無情にも夜の闇に消えていく。冷たい車のフロントガラスの上で。

マクトンが息絶えるシーンは圧巻で、デビュー作でこんなシーンを撮ったのかと絶句した。ここで終わっても良さそうだったけど、イ・チャンドンはこの後にさらに冷徹な場面を続ける。

マクトンの家族が飲食店を開いている。
彼が思い描いたささいな夢だけは実現され、マクトンが報われるせめてものラストなのかと思った矢先、店にマクトンのボスとその愛人がやってくる。ボスと愛人はそこがマクトンの家族の店であることに気付いていない。

彼らに出す料理を作るために庭先の生きた鶏を追いかけ回すマクトンの家族。息子を殺した人間に振る舞う料理を作るために首を落とされるのは、人間よりも弱い鶏だ。ここでも抗う事のできない大きな力が象徴されているように思う。

食事を終えた帰り際、密かにマクトンと心を通わせていた愛人が庭先の大きな柳の木を見て、ここがマクトンの家族の店であることに気付き嗚咽する。彼女は妊娠し腹が膨らんでいる。彼女の腹の中にいる子の父親はボスなのか、それとも…


これ以降の作品と比べるとややスコアは低いけど、それでも4.2。めちゃくちゃ面白かった。6作品観て結局平均スコアは脅威の4.7以上…信じられへん。

どうでもいいけど最後に言いたいことが1つ。4Kレストアじゃない方の『グリーンフィッシュ』のパッケージヴィジュアルがどう見ても井上陽水にしか見えない。ホテルはリバーサイド。
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