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イ・チャンドン アイロニーの芸術のKeigoのレビュー・感想・評価

4.0
運良く自宅からそう遠くない目黒シネマで特集上映がある2023年末のタイミングで、なんとしてもまだ観ていないイ・チャンドン監督作品を全て観た上で最後にこのドキュメンタリーを観ようと画策していて、なんとか完遂することが出来た。

イ・チャンドン本人へのインタビューを軸に、それぞれの作品に出演した俳優などのインタビューも交えられている。直近の『バーニング』から遡っていく構成は『ペパーミント・キャンディー』に準じたもので、『グリーンフィシュ』よりさらに以前、小説家時代や教師時代、学生時代から幼少期まで遡る。無駄な脚色や色付けをせず、極力丁寧にイ・チャンドンや俳優達の語ることに耳を傾けるような作品の真摯な姿勢からは、イ・チャンドンへの敬意と信頼が感じられた。

イ・チャンドンがそれぞれの作品のロケ地を渡り歩いてインタビューに応じる。どの場所も特別絶景である訳でもなくありふれた場所のように見えるが、それぞれの場所が映されるとすぐにどの作品のロケ地かが分かる。風景までもが自分の中にこんなにも刻まれていることを改めて思い知らされると同時に、作品にふさわしい舞台を選び出すイ・チャンドン監督の眼差しにも感嘆させられる。

それぞれの作品についてや監督自身の過去について語られることから、彼の中でこれまでに変化してきたことも、変化せずにずっと横たわっていることも感じられた。

ただ、良い意味で、そんな風に思っていたなんてと思うような驚きはなく、作品から自分が感じ取っていたこととイ・チャンドン自身が語ることに大きな相違がなかったことが嬉しかった。

現時点で、こんなにも信頼している監督は他にいないかもしれない。寡作な監督なのでこれからあと何作撮ってくれるのかは分からないが、これまでの作品を大切にしながら、新しい作品を心待ちにしたいと思う。
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