ゑぎ

ベツレヘムの星のゑぎのレビュー・感想・評価

ベツレヘムの星(1945年製作の映画)
4.0
『スター・イン・ザ・ナイト』
 シーゲルが長編デビュー作『ビッグ・ボウの殺人』の前に撮り、その才能が認められた22分の短編映画。タイトルでも推測できるが、クリスマスの映画だ。これがまた、とても良い出来なのだ。実は、私はクリスマスには人一倍(と云っていいかどうか分からないが)思い入れがあり、大好きなクリスマスソング「あゝベツレヘムよ」や「神の御子は今宵しも」なんかが劇伴でずっとかかっているということもあって、途中で、涙腺決壊のスイッチが入ってしまい、泣きっぱなしになってしまった。

 さて、冒頭はサボテンのある砂漠の夜の風景。3人の若い牧童が乗馬で行く場面だ。誰にあげるとも決めていないクリスマスプレゼントをいっぱい買ってしまった、みたいなことを云っている。彼らは、地平線の向こうに、見たことがないような大きな星が明滅するのを見る。
 場面は換わって、星は、モーテルの給水塔に取り付けられた電飾だった。梯子に上って配線の修繕をするのはモーテルの主人、ニック-J・キャロル・ネイシュ。そこにヒッチハイクで旅をしているらしい青年-ドナルド・ウッズが来て話しかける。ロビーで少し休憩させて欲しい。ニックは最初は断る。今日は人に親切にする日じゃないですか、と青年。俺には関係ない、クリスマスなんて大嫌いだ、とニック。この後、ラストまで、このモーテルが舞台となる。

 他の登場人物では、ニックの妻ローザが重要だが、既に逗留している客として、多分、コーラスグループなのだろう青年たち(彼らは、一度も画面には現れない。ただし、彼らが唄うクリスマスソングがオフでずっと聞こえている)、隣室の歌がうるさくて眠れないと云いに来る女性、シャツのクリーニングの品質が悪いとクレームをつける男性がいる。また、新規の客として、年配の夫婦が来て、最後の一部屋を借りる。毛布を余分に欲しいとの要望に、ニックは断るが、ローザは自分の分が洗い立てだからと云って貸す。そして、そこに、砂漠で車がエンコし、凍死するかもと思ったと云う若い夫婦、ホセとマリアがやって来る。マリアは具合が悪そうだ。しかし満室だ。ローザは、納屋があると云う。納屋に2人を案内しながら、夫のニックは今は気難し屋(タフガイ)だけど、昔は違った、足を怪我した馬を見て泣くような優しい人だったのよ、とニコニコしながら云う。もうこのあたりで、私は感極まってしまったのだ(今これを書きながらも泣いてしまそうになる)。

 この後のプロット展開はだいたい察しがつくものかも知れない、簡単に書くと、登場人物全員が一つの問題解決に協力してあたることになる、というものだ。冒頭の牧童3人も終盤このモーテルに現れ、買い過ぎたプレゼントはある人に贈られることになる。22分の中でこれらを見せるのだから、とても簡潔なショットで構成されているのだが、しかし、とてもきめ細かなカット割りだと感じさせる。多分2台のカメラを使ったマルチ撮影で、アクション繋ぎがキビキビと決まって行くのだ。ラストは、ヒッチハイカーの青年がモーテルから歩いて行くのを、窓から見るニックのショット。目には涙をためている。全体にシーゲルらしい題材とは云えないかも知れないが、しかし、この必要十分な演出には、シーゲルの才をよく感じることができると思う。あと、後年、ヒッチコック映画の撮影者になるロバート・バークスの初期作でもある。
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