ひろぽん

哀れなるものたちのひろぽんのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
不幸な若き女性ベラは自ら命を絶つが、天才外科医ゴッドウィン・バクスターにより、自らのお腹に宿っていた胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。世界を自分の目で見たいという強い欲望に駆られた彼女は、弁護士のダンカンに誘われ大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら幼児の目線で世界を見つめるベラは、時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。何も知らないベラが、冒険を通して世界を知っていく物語。


自ら命を絶った若き女性が、天才外科医の倫理に反した行動により、胎児の脳を移植され、ベラとして生まれ変わる。見た目は大人、中身は子どものベラが、旅を通して世界について知っていくお話。

ベラとして生まれ変わりゴッドの屋敷に軟禁されている序盤は、魚眼レンズなど様々なレンズが使用され、色の無いモノクロの世界観が不安定なカメラワークで描かれる。

世界に解き放たれてからは、絵画の様に鮮やかな色が付き、華やかな世界観が描かれる。ベラが世界に興味・関心を持ち、経験したことがないモノを経験していく過程は、全ての現象が新鮮であるという事なのだろう。このモノクロからカラーに変わる演出はとても斬新で素晴らしいアイディアだと思う。

絵画的なアートの様な現実離れした街並みや船の造形、異様なまでに綺麗な空などの風景が見とれてしまうくらいとても美しい。それに加え、ベラの着る衣装がどれも華やかさと上品さを兼ね備えており、エマ・ストーンの美しさをさらに際立たせている。アートの様な風景や衣装と、不協和音の不気味なBGMが合わさり、独特の雰囲気を醸し出している。


はじめは歩くことすらぎこちなかったのに、次第に動きが滑らかになり、成長していく様子を歩き方で表現したエマ・ストーンは、演技力が高くとても上手だった。子どもがとる行動や、大人へと成長していく過程での思考や選ぶ言語などを上手に使い分けている。

マズローの欲求5段階説の様に、「生理的欲求」から「自己実現の欲求」までを段階を踏んで成長していく過程が人間らしくて面白いなと思った。

皿を割るなどの物を投げる行為や自慰行為、暴飲暴食、性行為をするという本能のままに行動する動物的な行いから、読書や哲学をして知識や経験を積み、どんどん人間らしく成長をしていく。

性の快楽に目覚めればひたすらSEXをしまくり、音楽に心を動かされれば自由に踊り出す。疑問がわけば相手に質問を投げかけ会話を迫り答えを追求し、体験したことの無いものがあればなりふり構わず挑戦していく。「楽しいこと、気持ちいいこと」を突き詰め、実験と検証を繰り返し、興味本位で探究して学びを得ていく姿はまさに人生を楽しんでいるように感じた。進歩や改善にこだわり、納得するまで探究する飽くなき好奇心は見習いたい。

目まぐるしい速さでベラの心は成長していき、幼児から聡明な女性へと変貌していく過程に至るまで自然な流れで爽快だった。

自分の心にある興味のそそるものに対して、真正面から向き合って探究して、心を育んでいくことの大切さを実感した。

「常識」とか「当たり前」にとらわれることなく、世界を旅して色々な人との交流を通して、結果的にそれらを身につけていくというのが良かった。失敗と挑戦を繰り返し、試行錯誤しながら振る舞いやマナーを身につけていくことに意味があるんだなと思う。

どんどん知識を身につけ自我が芽生えるベラに対し、遊びのつもりで支配していると思っていたダンカンが、結果的にベラに振り回され本気になり、立場が逆転し、女々しく落ちていく姿があまりにも無様で爽快だった。執着する側が追う立場になり、執着される側が追われる立場になり負けるという、恋愛の罠にどっぷりハマってる。

下品さを感じさせない上品な弁護士のダンカンや、船上で出会った人生経験豊富なマダムのキャラが好きだった。

メッキが剥がれたダンカンにも、力で支配しようとした元旦那にも、ベラを心から愛するマックスの手中にも収まらないベラの自由奔放さが魅力的だった。
そして、ラストはとてもあっさりした幕引き。


エマ・ストーンの濡れ場の多い体を張った圧巻の演技は本当にびっくりするくらい素晴らしかったし、ウィレム・デフォーの優しさを兼ね備えたマッドサイエンティスト感が漂う役柄を演じきったのも良かった。

『哀れなるものたち』というのはベラに関わる5人の男性たちの事だろうか?ベラを手に入れたかったが、ベラを手に入れる事ができなかった哀れな人たちのことを指しているんだろうなと思う。

ぶっ飛んだ世界観と絵画的なアートの美しさの輝く作品で、個人的にはこの世界観が好きだった。フェミニズム色が強く、世界の目を背けたくなるような現実を皮肉って浮き彫りにしている社会派の作品だと思う。エロさもグロさもアートの一部になってる。
ひろぽん

ひろぽん