サンヨンイチ

哀れなるものたちのサンヨンイチのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
不条理で寓話的なランティモスワールドがスペクタクルな物語へと昇華し壮大なスケールを纏う。作り物の空や風景は舞台上に広がる無限の亜空間といっても過言ではないだろう。

魚眼レンズを多用する映像は、過去作よりも孤立感を増幅させ、ベラやゴッドが異端であることを痛感させる。
台詞では最低限にしか明かされないゴッドの半生も、
ショットごとに映る姿だけでそれを示す、映画としての整頓力に脱帽させられる。

監視カメラのような手法は、彼らがあくまで実験対象であるということを暗示するとともに
この実験者がゴッドではなく、神視点(=観客視点)であることを意味していると感じる。他の作品と比較しても、より俯瞰で他者の人生として鑑賞しつつ、
では自分の人生はどうなのか、と照らし合わせることを可能にする。突き放された共感できないフィクションだからこその力業だ。

行為の後に男性の弱さを察知したり
娼婦として生活においても“利用されない”
ベラの探求心は
男性社会の欲望に支配されない女性のマインドを投影していると思われる。
不条理=胸糞、バッドエンドではなく、
筋道が立たない、思うようにいかない不条理が確立したとき、
どう生きていくのかどう考えるのかを問うランティモスの作家性と
本作のベラの半生はいみじくも合致している。
(不条理への克己は長い歴史で男性社会が常に失敗してきた禁忌でもある)

エマストーンやマーゴットロビーのような
演者としてもプロデューサーとしても
ウーマンエンパワーメントの表現に長けた存在が
ハリウッドで着実に台頭してきていることが
時代の潮目に逢っている気もして有り難く観ている。