マヒロ

哀れなるものたちのマヒロのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
(2024.12)[3]
医学生のマックス(ラミー・ユセフ)は、教授であるゴッドウィン(ウィレム・デフォー)の家に招かれ、ベラ(エマ・ストーン)という女性の行動を記録するように頼まれる。実はベラは自ら川に身を投げ命を絶った女性の死体をゴッドウィンが蘇らせたものであり、まだ子供レベルの知能しか持っていなかったが、貪欲に知識を吸収し猛スピードで成長していく。そんなベラに惹かれて結婚を考え始めるマックスだったが、結婚の契約のために訪れた弁護士のダンカン(マーク・ラファロ)の口車に乗せられたベラは、世界を見てみたいと言いダンカンと共に屋敷を飛び出してしまう……というお話。

主演エマ・ストーン×監督ランティモス×脚本トニー・マクナマラが『女王陛下のお気に入り』に引き続き組んで作られた作品で、前作以上に過激な性描写に驚き。ただ、権力争いのための性描写という感じが強かった『女王陛下〜』と違い、今作は女性の自由意志・自立を描くにあたって描かれているものであって、結構性質は違うように思えた。
無垢な存在だったベラが初めて自分で喜びを得たのが自慰行為の目覚めの瞬間であり、そこからも所かまわずセックスをしたがるが、最後の最後まで“自分がやりたいからやる”というスタンスは崩さず、主導権はあくまで相手に渡さないのが良かった。
エマ・ストーンは『女王陛下〜』以上の体当たり演技を見せているが、それをわざとらしく感じさせないチャーミングさと芯のブレない力強さがまさにハマり役。巨大な瞳で世界の全てを見つめて吸収していく様が、気高くて格好良かった。

ベラを惑わす存在として現れるダンカンは、女性より知識的に優位に立っていないとたまらないというタイプだが、自分が手綱を握っていると思いながは実は終始ベラに振り回されてばかりで、無知だったベラが賢くなっていくにつれて勝手に不機嫌になっていくというしょうもない男。だいぶ嫌な奴ではあるんだけど、演じるマーク・ラファロの絶妙な憎めなさというか、捨てきれない愛嬌みたいなものがあってか、不愉快なキャラクターにはなってなかったのが絶妙だった。愛想を尽かされてほっぽり出され、建物の外から「ベラァ〜」とか情けない声出してる姿とか面白すぎた。
純粋悪みたいな男はこの後に出てくるのである意味引き立て役みたいな立ち位置なのかもだが、有害な男性性を持ちつつも、それを極端に擬人化したような不自然さのない、人間臭さをもった存在という一人の生きた人間として設計されたキャラクターが良かった。

奇妙なルールに囚われる人の話はランティモス監督のお得意のテーマで、今作も例に漏れず同じような状況から始まるが、そのルールを積極的に打破していくことが主題となっている辺りがこれまでの作品の殻を破っているかのようでワクワクさせられた。例えるなら家の中で外を知らずに生きてきた『籠の中の乙女』の少女たちが外に出たら……みたいな感じ。
女性の自立を描いたという点では、直近の作品ではアカデミー賞でも争うことになる『バービー』とも似た点があり、アプローチの仕方は全く違うものの、最終的には両作ともに“女性器讃歌”とでも言うような結論に落ち着くという共通点がある。男が無意識のうちに求めてしまう“処女性”みたいなものにNOを突きつけるという意味で、偶然そういう結論に至ったのだとするとなかなか興味深い。

不自然に歪んだカメラワークや現実離れしたセット、調子っ外れな劇伴(予告編で聴いてからクセになってサントラ何回も聴いてしまったが、観る前にサントラを聴き込んだのなんて初めてかも)、奇妙な味付けはされているものの、これまでのランティモス作品とは違うストレートで前向きなメッセージ性を孕んだ爽やかな作品で、めちゃくちゃ性描写が多いという高いハードルを超えれば実は一番見やすい作品なのかなと思った。
マヒロ

マヒロ