あさ

哀れなるものたちのあさのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7
「怪作」と表現されてきた作品はこの映画の右に出ては怪作とは言い切れなくなる。けれど『哀れなるものたち』を「怪作」と呼ぶには言葉が陳腐で足りない。

そう思って観てたけど、終わってみると「怪」という言葉はやっぱり邪魔で、ただの傑作だったと思う。熱に浮かされてる部分も多いんだけど。

POOR THINGS ←これ以上に作品を表すタイトルはないのだけど、これが『哀れなるものたち』になったのも拍手喝采。いや…ロブスターとお気に入りしか見てないけど、ヨルゴス進化しすぎじゃない?マクナマラの脚本マジでぶっち切りだな!言葉選びが天才でしかなかったよ。文法もめちゃくちゃなベラの語り口が饒舌に変容していく気持ち良さったら…

面白かったポイントバラバラだからメモ↓

◆裸体描写
映画がハッキリと彩られるあのセックスシーンは言わずもがな、裸体がすべて映し出されることもこの映画に於いては大事だったように思う。すんごい、「人間」だった。汚くて、苦痛で、欲望に塗れた姿。こんなに不快な光景ある?後半に出てくる娼婦館でのシーンを出すためにもマークラファロとの情事も、女の子とのシーンも対比がバチバチに効いてた。同じセックスでも伴う快楽と苦痛の雲泥の差ったら。そういえば、解剖室にあった男女も裸体が出てきたけど、あれはタダの肉の塊だった。なんかマジ「人間」って何?の境地にぶち落とされた。全然感情整理できてないけど凄かったの。性欲ってマジすごい。生にもなるのに心を殺すこともできる。

◆女性の身売り
身体を打ってお金を稼ぐシーンが非常に痛々しいのだけど、どうかこれを見てそのキショさを体験しよう全人類。これで興奮したら脳の移植が必要だよ。身体を売ることへの男性陣のリアクションの差も…こんなこと言ったらアレだけど実験。女性の身体は女性のもの。そこを案ずる気持ちがあるか、ただ悍ましいと思うのか。ラファロ、お前は数々の女を抱いてきたのに何の分際なんだ、気持ち悪い。(ラファロは気持ち悪くない。)あと娼館の主、apple版マクベスで三人の魔女を演じた人だ!とんでもなく声が渋くてアンタ最高。

◆格差社会
ベラが目の当たりにした世の絶望。最近やたらと「法変えたい、社会変えたい」を毎日思う己の愚かさを見た気がする。現実主義の彼が言った、「資本主義と社会主義の嘘に騙されるな」は今の自分にザクザク刺さったし、それでも私は社会主義に傾いてるんだわと認識しちまった。とはいえ何様?だし、何もしてねーし。お金を渡して少し心がスッキリしているのがまた愚かで哀れ。お金という紙切れがあってもスラムは良くならないんだよ。ちなみにここまで全部自分にブーメラン。

◆女子割礼思い出しちゃうな〜!
クリトリス摘出の話出てきたけど、いまだに世界では女子割礼あるの知ってから本当に悍ましくて悍ましくて、あれがフィクションと言い切れないことが一番の絶望よ。体調悪くして一生心に傷を負うけど覚悟を持ってみなググって。

◆幼少期のトラウマと禁忌
ゴッドの幼少期の虐待はその実験生涯にがっつり影響していると思う。彼には少し良心があるのだけれど。人は特に幼少期のトラウマを負ってしまうと将来にガッツリと反映されてしまって、それは簡単にはこびりついて剥がせないものだなと、最近いろんな事件とかも見ててすごく思うの。その意味でもゴッドが禁忌に手を出すことの背景があるのは良いなと思った。
永遠に議論されるクローン是非にも思考が繋がるんだけど…ベラの身体に行われた手術はとても許されない行為とはいえ、物語上大きな意味を成していた。母を守る子でもあり、自分の身体と精神を見つけて強く生きる女性の姿でもあり。とはいえ、ゴッドにはベラへの愛があったけれど、その次に生まれたマーガレットクアリーがあまりにも悲惨だった。命はおもちゃのように作って良いものでは無い。
後ほんと頭足らずで申し訳だけど、正直、最後ベラはゴッドの脳を将軍に移植しやしないかとは思ったの。自分が受けた傷(意思とは裏腹に子の脳を移植されたこと)を繰り返すのではと。それをせずに、憎くて愛する父を寄り添って、最後は人として見送ったことが尊いし「進歩」なのだなと思った。

正直、途中まではア〜既視感あるな〜とか、ギレルモが『ナイトメア・アリー』を撮った時に近い感情すらあり、家帰ったら『女王陛下』もう一回見ようかなと早々に口直し(失礼)しようと思ってたんだけど…マジで良い意味で裏切られた。本当に愚か者ですみませんでした。
『ナイアド』アネット・ベニングに主演女優をと思ってたけど、エマ・ストーン…もう二人とも英雄賞でいいよ。すごいよ。
明らかにPMS期間に見るもんじゃなかった。共感度高すぎて爆病みしてる。人類なんていらね〜よモード。汚い汚い!!!

二回目見た。
フランケンシュタイン比較面白そう。
「自由」をテーマに作品比較できそう。
青は哀しみの青とも読めるけど、色の因果関係も面白そう。
あさ

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