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ほつれるのtkykのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
3.9
「わたし達ははおとな」に続き、加藤拓也の強烈な作家性が発揮された作品だった。この2作を通して語られるものは「一見平穏に取り繕われた関係性が次第に大きな歪みを見せ、それが噴出するまでの過程」だと言える。

本作では門脇麦と田村健太郎の夫婦の関係性の変化が巧みに描かれていた。田村演じる夫は常に平静を装っているため、対する門脇もそれに応じて冷静に受け答えする。しかしその会話の内容や雰囲気からは既に若干の破綻が感じられる。観客がその破綻を感じると同時に作品は対比的に染谷将太と門脇2人の場面を差し込む。しかも異なる2組の同じ場所での様子を示すためより一層門脇演じる綿子の様子の違いが鮮明になる。「わたし達はおとな」でも見られた時系列の交差が本作でも非常に効果的に発揮されていた。

本作ではもののやり取りが非常に重要な役割を担っている。序盤に木村から綿子に送られる指輪の顛末や中盤で綿子と文則がプレゼントの交換をする展開は綿子の木村への思いの強さや綿子と文則の関係性の変化を表現する際の媒質となっていた。しかも指輪の顛末と夫婦間のプレゼントのやり取りを交差させる事で綿子の一見相反する感情が共存し、その後文字通り「ほつれる」展開へと繋がっていくのは見事だった。

「ほつれ」た後の展開は青い炎が静かに燃えているような感じがした。綿子と文則は決定的に決別するが綿子の様子には取り乱した様子はない。それでもその内に秘める感情は強く、彼女の行動を後押ししているようだった。彼女が最終的にどこに向かうのか分からないがそれでも彼女の行く末に不安を感じることはなかった。

常に一歩引いた視線を感じさせると共に無駄のない的確な演出と構成が光る作品だった。ますます加藤拓也の次回作が期待される。
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