マヒロ

瞳をとじてのマヒロのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.0
(2024.22)[4]
元映画監督のミゲルは、かつて自身の作品の撮影中に失踪してしまった俳優のフリオについてのドキュメンタリー番組に出演することになる。作品のフィルムを取り寄せたり、娘のアナに会いに行ったりと調査に協力するミゲルだったが、決定的な証拠は出てこないままだった。そんな中、放送された番組を見た人から「似た人物を知っている」という連絡が来る……というお話。

寡作なヴィクトル・エリセ監督の30年ぶりの作品。近年、巨匠や若手問わず映画にまつわる映画を撮る人がかなり多くなっているが、まさかエリセ監督もその流れに乗るとは思わなかった。
俳優の失踪というシリアスなテーマを扱っているが、自作だけでなく他の作品のオマージュがあったり、失われつつあるフィルム映画が人を救うきっかけになったりとか、分かりやすく映画愛を訴えるような平和な内容だったのが結構意外。

『ミツバチのささやき』や『エル・スール』と比べると170分近くあり結構ボリュームのある作品だが、『エル・スール』も後半部分が製作上の都合で無くなってしまったということらしいので、本来同じくらいのボリューム感だったのかも。そちらもいなくなってしまった父の軌跡を追うという似たような話なので、ある意味やり直しとも言えそう。そう考えると『ミツバチのささやき』と同じ役名で同じセリフもあるアナ・トレントの起用とか、窓から差すオレンジ色で照らされた部屋の描写とか、過去作の総決算みたいな作品としても作ってるように思えた(『マルメロの陽光』は未見なので分からないが)。
正直なところ冗長だなと思う場面もなくもないが、そのゆったりした時間感覚が心地良いところも多く、ミゲルが浜辺の自宅で近所の人と談笑したり、ある施設で壁のペンキ塗りを手伝ったりとかの何でもない時間の爽やかな切り取り方がとても良かった。この時間感覚も作品一本一本に時間をかけるエリセ監督ならではのものなのかもしれない。

同じく巨匠による映画にまつわる映画として近年では『フェイブルマンズ』があって、あちらはスピルバーグがまだまだ才気走っていることを示すようなギラツキを感じさせられるような作品だったが、今作はむしろそういうトガリを感じさせない、無理に“作品”として形成しようとし過ぎず手癖で撮り、それが自然と映画として成り立ってしまっているみたいな達人技っぽさがあり格好良い。ここからまた充電期間に入るのかは分からないが、総まとめのような作品をとった後、エリセ監督がどんな物語を作りだすのか見てみたいな。
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