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ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 結局、ジャン=リュック・ゴダールとは何だったのか?単なる人名と呼ぶのは心許なく、ジャンルと呼ぶにも実体はなく、フィルモグラフィを観ても一貫性がない。彼自身の人生が狂言廻しのようなものだったとすれば、ジャン=リュック・ゴダールにとっては死が最期のアクションだったかもしれない。若い頃はヌーヴェルヴァーグを体現する存在としてパリの象徴として映画を撮って来たヒットメーカーが、スイスの片田舎に隠居するまでの過程はおおよそ、順番通りに過不足なく描かれる。『JLG/自画像』まではインタビュー本や批評集にも幼少期の写真は1枚もなく、ブルジョワジーだった自身の幼少期~思春期を語りたがらなかったが『JLG/自画像』の古びたモノクロ写真を何度も挟みながら、若いドキュメンタリー作家は監督=ジャン=リュック・ゴダールを丁寧に描写する。彼と同時代の作家はもうほとんどこの世におらず、代わりに今作ではゴダールの作品に出演した女優たちが彼との思い出をカメラの前で語る。マーシャ・メリル、マリナ・ヴラディ、ナタリー・バイにハンナ・シグラ。予告編では映らなかったがジュリー・デルピーもいる。

 105分という収録時間の為か、個々の様々な作品への演出意図などはほぼ割愛される。ゴダールの人生そのものが、過去に自分が撮った作品を経済的折り合いとか創作的妥協の産物とか否定するのだから。『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』のような商業映画を否定し、自身の記名すら否定するのがジガ・ヴェルトフ集団だったとすれば、『右側に気を付けろ』で商業映画復帰した彼はジガ・ヴェルトフ集団の意義すら否定して行く。結局、彼は生涯1本も満足な映画を撮ったことはなく、10年の歳月をかけた『ゴダールの映画史』ですら栄光のゴールではなかった。ドキュメンタリーの中で印象的なのは71年のバイク事故で瀕死の重傷を負う場面だ。10日間に渡る大手術で幸い、一命を取り留めたものの、その事件が元でゴダールは住み慣れたパリを離れ、スイスのグルノーブルへ移り住み、「ソニマージュ」を創設した。傍らにはバイク事故の時に病院で献身的な介護をしたアンヌ=マリー・ミエヴィルがいた。他人から見ればどれだけ崇高でも、創作した本人からすればかつて撮った映画への自傷行為は止まらない。五月革命のゴダールのアジはつとに有名だが、あの映像を観て若気の至りのような感情を持たないはずがない。風変わりな作家の人間としての孤独と常軌を逸した自己否定。ジャン=リュック・ゴダールはもうこの世界にはいない。そして宿題としての途方もない映像の洪水だけが今ここに残された。
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