ウサミ

愛にイナズマのウサミのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
3.9
前情報はほとんど無しに観たのですが、エンドロールの監督の名前見て「あーたしかに」と思う作品でした。
素晴らしい点と僕が好きになれない点が明確に存在し、最終的にはややマイナスが勝ってしまうような作品でした。
素晴らしい点はびっくりするほど素晴らしかったので、ウームな勿体なさを感じ、やや不完全燃焼の映画でした。

コロナによる社会の変化と、閉鎖的な日本という国の中で現代にジワジワと滲み出し、浮き彫りになってきた悪意を、躊躇うことなく描く豪胆さは素晴らしい。が、同時に、ややキャラクターが紋切り型の造形であり、「こんな社会の理不尽あるよね!!」が見えすぎるあまり、説教臭く、うるさいです。不愉快でした。

キャラクターの個性が尖っているゆえ、画面は楽しくドラマに抑揚があるのが魅力ではありますが、不愉快の連続により、肝心の映画に対する愛着を持つのに多大な時間を要するため、せっかく中盤からエンジンがかかってきても、溜め込まれた不愉快や理不尽に対する解放がなく、心のモヤモヤが付き纏い、常に作品に対して問いかけ、疑念を抱いてしまうような映画でした。

型にはめ、感覚を理解しようとしない業界人の描き方ですが、個人的に「映画監督や俳優のような、そちら側の世界にいる人こそ、そういった表現から離れて欲しい」と感じる表現方法そのもので、辟易しました。
私は当然映画や芸能の業界にいないため、彼らの姿がリアルなのかどうかはわかりませんが、頭ごなしに否定し、相手を納得させる材料を言葉で用意できない人間を、有能な人間とは思わないです。
ただ、監督が感じる「理不尽」を映画に具現化しただけの、社会風刺の免罪符を借りた「愚痴」のように思え、深みを感じませんでした。

映画の起承転結のシークエンスとしての役割は果たしているが、マイナスの感情を観客に溜め込ませるには、圧倒的に「面白さ」が足りない。
間違いなく確かに社会に存在する悪意の側面を描くには、本作は主観的な負のエネルギーが表面化されすぎているように思えます。セリフや行動を持って、悪意を描きすぎているために、そのリアリティが奪われ、観客に対する気づきや共感以上に、ただ観客を不愉快にするファクターにしかなっていないのではと感じました。

肝心の松岡茉優のキャラクターも、理解はできるが共感はできない。
理不尽に打ちのめされる人物像は良いが、結局のところ自分の思い通りにならない現実に対して表現の名を借りて説明を放棄しているように見えます。
「愛にイナズマ」のタイトルが表す通り、理屈を超えた直感により生み出される芸術は確かに存在すると思うのですが、とはいえ、それを作品がハナから「理由なんて要らない」「意味なんてくだらない」といったように否定するのはややパワープレイというか逃げ腰なのではないかと感じるのです。
彼女は敗北から立ちあがろうと決意するのですが、その後の姿は、歯を食いしばって立ち向かうというより、うまくいかない、理解されない苦しみをヒステリックに吐き散らかすだけに見えてしまう。
彼女の深層心理と、彼女が抱える孤独に共感できないから、そもそもの「家族の邂逅から始まる彼女のトラウマへの向き合い」に、あまり理解ができず、力ずくな印象を受けました。

規則に縛られたケータイショップの店員、金儲けの為の闇の仕事人、人を侮辱する金持ち…などなど、言いたいことは分かるが、ディテールより感情のマイナスコントロールが強く、意味のない説教にしか見えない。
「ムカつく側」はいつだって、ムカつかせる方を悪として、自身の行為を正当化し、相手の行動を批判してしまうきらいがあると思います。これが、現在のSNSなどを発端とする「正義の振り翳し」の原因だと思っています。
不愉快になった側は、自分が正義にいると思い込んでしまう。
ケータイショップの店員も、規則にとらわれた不愉快で滑稽な店員に映りますが、客観的な証拠無しにそりゃ解約できんよねというのも事実。
真実なんてそもそも誰にだって確かめようが無いから、相互理解が必要だと考えているのですが、本作はやや観客サイドが正義という側面が強く見えたので、少しゲンナリしましたね。

素晴らしい点は、やはり俳優たちの演技でしょう。
僕の大好きな若葉竜也や仲野太賀が出ており、めちゃくちゃ最高でした。池松壮亮も好きだなぁ。佐藤浩市も、やっぱりレベルが違うなと。
反則気味の脚本に涙ぐんでしまったのは事実ですが、それほどまでに、前述のモヤモヤを吹き飛ばすほど演技が素晴らしく、改めて、優れた俳優とは本当に素晴らしいなと思いました。
家族というパーツが揃い、ドラマが本格的に動き出すと、映画は途端に輝きを放ち、どんどん奥行きが出ていきました。
窪田正孝の造形がやや不明瞭で、意図がわからず必要性には若干の懐疑…
彼の演技は素晴らしいが、個人的にはグッと来ずでした。松岡茉優も同様。

最終的に、相互理解による存在確認という落とし所も、すごく好きでした。
もっと「面白い」が先行し、社会の理不尽をスムーズに組み込まれていれば、本当に素晴らしい家族映画になったのではと思います。

石井監督のなるべく自然体な息遣いで脚本を書きたい?的な意志は伝わったのですが、やはり観客と映画サイドの呼吸が合っていない気がして、常に冷めた、一歩引いた目で観てしまう作品でした。
やや必要性を感じないコメディがノイズに感じた面もあったが、石井監督の「感情の解放」でしか出せない味わいもあり、素晴らしく後から思い出したいシーンもありました。

好みが分かれる作品かもですが、好きな人にはイナズマかもです。是非!
ウサミ

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