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落下の解剖学のbebeのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

夫の不審死の容疑者となった妻とその母の裁判記録。劇的な展開はない。ただ粛々と裁判は進行し、複数の可能性が主張され反駁され、事実は捉えきれない。

「妻は夫を殺したか?」
ごくシンプルな問いを出発した刑事裁判は、証拠の少なさゆえに難航する。しかしその原因追求を見れば、自殺だとしてもその責任の所在が気になる。

 自分を大事にすると言えば聞こえはいいが、自分の輪郭を誇示する妻は共同生活に向かないように思われる。ロジックは理解できるが、理屈は万能ではない。裁判がそう。そもそも極めて自己中な自己弁護のように思われる。自由や権利といった言葉を履き違えているタイプ。
 夫も自覚的な自己犠牲で文字通り「身を尽くし」ては本末転倒だ。優しいのは立派なことだが、大切なNoを怠った。溜めてから発散するタイプだが、そうなれば言ったところで時すでに遅し。詮ないことを前に絶望するしか無い。
 夫婦の口論はごく一般的なもの。ただ夫婦間にしばしば生まれるカオスに耐える関係が築けなかっただけだろう。子を持つ夫婦ともあろう大人2人が…。

分からないから自分で未来を選択した子供の物語でもある。裁判とは本当に真実を追うためのものではない。分からないものにとりあえず答えを出す勇気は12歳にはまだ思い。恐くて当然。

夫の死も物語ではなく動機でしか無い。そういう意味で、本作はサスペンスではなくドラマだったのだ。
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