TakahisaHarada

落下の解剖学のTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.6
夫の死を巡るミステリーかと思いきや、法廷劇の時間が長くて、少しずつ明かされていく情報を咀嚼しながら陪審員的な立場であなたはどう思う?と聞かれているような映画体験だった。
150分超えで長いし、中盤ぐらいまでは退屈だなと思ってしまった…夫婦とも作家である事実と創作にまつわる葛藤、夫婦間の葛藤、目が不自由な息子を持つ葛藤とか、家族にまつわる事実が色々と明かされてきてやっと面白く感じられた。

終盤、証言をするダニエルに突き付けられる母の殺人か父の自殺かという二択が不憫すぎて辛かった。保護人のベルジェに「どっちだと思うか私見でいいから教えてほしい」的なことを言っていたし、ダニエル自身どちらかに確信を持っていたわけではないように見えたけど、存命の母を守る選択をしたということだったのかな…。
無罪になったサンドラが帰宅したときにダニエルが言う「ママが帰ってくるのが怖かった」がすごく引っ掛かっていて、裁判を通して母の暴力的な面や知らなかった事実を知ってしまったからなのか、それとも心のどこかで父を殺したんじゃないかと思っているからなのか…後者でああいう証言をしたんだとしたら切ないし「母なる証明」の逆じゃん…と思った。

厳粛な法廷が舞台だからか、所々ある笑えるシーンはすごく印象に残った。「サミュエルが流していた50Centの『P.I.M.P.』は女性差別的な内容だ」に対する「流していたのはインストだ」と、「サンドラは実生活を題材に小説を書いていた」に対する「スティーブン・キングは連続殺人犯か?」は特に笑った。スティーブン・キングつながりだと「シャイニング」とはやたらと共通点が多いけど何か関係あるのかな(父が小説家志望の元教師で死ぬ、息子がダニエル、舞台が雪山…)。

どっちにも見えるザンドラ・ヒュラーの演技がすごくてオスカーノミネートも納得。監督がザンドラ・ヒュラーにサンドラが実際には無罪なのか有罪なのか伝えなかったという話も面白い。
あとスヌープがアスピリンを飲まされて死にかけるシーン、CGじゃないだろうしどうやって…?と思ってたら犬の演技なのすごい。カンヌにパルム・ドッグ賞があるのも初めて知った。
映画冒頭の、階段からスヌープのおもちゃらしきボールが落ちてくるシーンも、いきなり落下じゃんって感じで印象に残ってる。