ぶみ

落下の解剖学のぶみのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
疑念の中に〈落ちて〉いく。

ジュスティーヌ・トリエ監督、ザンドラ・ヒュラー主演によるフランス製作のドラマ。
雪山の山荘で男性の転落死が発生、殺人容疑がかけられた妻等の顛末を描く。
主人公となる被害者の妻・サンドラをヒュラー、彼女の友人かつ弁護士・ヴァンサンをスワン・アルローが演じているほか、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ等が登場。
物語は、被害者と小説家である妻、視覚障害のある11歳の息子の三人家族において、冒頭、夫の転落死を発見するシーンでスタート、以降、事故なのか、自殺なのか、はたまた他殺なのか捜査が進められるなかで、妻であるサンドラに殺人容疑が向けられる様が中心となるが、予告編から察するに、誰が犯人なのかのフーダニットや、何故事件が起きたのかのホワイダニットを解明していくサスペンスやミステリ色が強いのかと思いきや、その実は、サンドラが法廷で証言していくドラマとして進行していくため、前述のようなゴリゴリの謎解きミステリを期待してしまうと、拍子抜けしてしまうことに。
しかし、本作品の本筋は、所謂謎解きではなく、夫婦にしかわからない人間関係を筆頭に、家族にしかわからない、はたまた親子にしかわからない関係性が如実に炙り出されていき、それに対して法廷がどのような判断を下すかが最大のポイントであり、通常のサスペンスものとは一線を画す内容となっている。
そして、観る側をそんな法廷での傍聴者や、陪審員的な視点から見させようとするカメラワークや、アップの多用、心情では理解できても証拠がなければどうしようもない、といった、法廷ならではの演出により、関係者からの発言が二転三転したり、証拠が出たりするたびに、真実は何かと考えていたことが簡単に揺らいでしまう自分に気付かされた次第。
特に、中盤にある過去にあった夫婦の口論の録音音声と、その再現シーンは、ヒリヒリするような夫婦の空気感が手に取るように伝わってくるものであり、絶対にあんな状況には陥りたくないなと思わせるもの。
また、クルマ好きの視点からすると、冒頭に登場した女性のクルマが、スズキ・S-CROSSであったり、主人公一家のクルマが三菱・パジェロであったりと、日本車率が高かったのは、何気に嬉しい限りであると同時に、パジェロは結構古いモデルであったたため、主人公一家の財政事情を端的に表していたポイント。
基本、劇伴が廃されたヒリヒリとした会話劇の中に、少しのすれ違いから生じる人間関係のズレが巧妙に描かれており、法廷ドラマとして濃密な仕上がりになっているとともに、陪審員の難しさが手に取るようにわかり、ドラマなのだが観る側の心の中にザワザワとしたサスペンスが巻き起こる良作。

問題なのは、そこじゃない。
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