スワヒリ亭こゆう

落下の解剖学のスワヒリ亭こゆうのネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

カンヌ映画祭パルムドールを受賞した本作。
『落下の解剖学』はタイトルの雰囲気が『容疑者Xの献身』っぽくてミステリーを予想していました。
ミステリーでも間違いではないんですけど、どちらかと言うと法廷ミステリーの様相を呈している作品でした。

事件が起きるシチュエーションが面白いですね。
人里離れた雪山の山荘の外で一人の男が死んでいる。
恐らく山荘から転落したと思われる死体。
第一発見者はその死んだ男の息子ダニエル。そして家の中には妻のサンドラだけがいた。
警察の見立ては不審死でサンドラが容疑者に挙がる。ダニエルが事件の証人になるがダニエルは目が見えない少年だった。

事件の真相は見せずに語られていくミステリー。
ですが、早々に妻のサンドラは警察に逮捕されてしまいます。
日本の司法とフランスの司法の違いなんでしょう。状況証拠で取り敢えず逮捕みたいな感じなんです。
凶器も見つかっていないし、動機も明確になっていない内に逮捕して裁判の中で明かされていくんです。僕はこの話の展開に戸惑ってしまったかな。
保釈金でサンドラは家に帰る事は出来ますが、勾留されていないだけで、被告人である事に変わりないです。
【疑わしきは罰せず】というのは日本に於いても無くなりつつありますが、フランスの場合は警察自体も同じでした。
それと、ダニエルの視力についてはもう少し具体的に言及する必要性があります。事故による視力神経損傷の為に目が見えなくなった。と劇中で言っています。でも、完全に見えないのか?少しは見えるのか?だとすればどの程度見えてるのか?
父親が倒れてるのを発見したり、スマホを使っていたり薬を見分けたりして少しは見える演出があるので、もしかしたら全部見えてるのか?とかって勘繰ってしまいました。

司法によりサンドラは暴かれたくない事まで晒される。息子ダニエルの前で行われる裁判はサンドラの容疑者として有罪か無罪か。この辺りはどうなるのか?分からないまま進んでいくので、話の結末に向けてのめり込む作りになっていました。

⚠️⚠️⚠️⚠️ネタバレ注意⚠️⚠️⚠️

⚠️⚠️⚠️⚠️ネタバレ注意⚠️⚠️⚠️

⚠️⚠️⚠️⚠️ネタバレ注意⚠️⚠️⚠️

正直言って少し期待しすぎてしまったかもしれません。事件の真相よりも過程を愉しむべきでした。
裁判の判決が下った後に更にオチを期待してしまいました。
なので、最後にサンドラが無罪を勝ち取り家に帰った後ダニエルとの会話の中で実は殺した事が明かされるのではないかと期待したんです。理由も含めて。
結局は自殺という事で落ち着いたんですけど、オチを期待しすぎて消化不良でした。
ただ時代が善と悪を求めてないんだなっていうのは何となく感じました。というより力を持つ事がダメな気がします。

『落下の解剖学』というタイトルは原題の直訳らしいです。
死んだ夫が転落しただけでなく、サンドラというベストセラー作家の本質的な部分の転落を落下の解剖学として見せている作品だと思います。
描いているのは複雑ですがスキャンダルが好きな大衆性も描かれている気もします。サンドラの暴かれていく事が不倫やモラハラだったりは日本の週刊誌のゴシップと何ら変わりないのは僕はウンザリしました。そこを面白がれなかったですね。
全体的に嫌いじゃないけど期待していたのとは違う映画でした。