長谷川朗

墓泥棒と失われた女神の長谷川朗のレビュー・感想・評価

墓泥棒と失われた女神(2023年製作の映画)
4.8
アリーチェ・ロルヴァケル監督の新作が7月19日に公開となる。昨年のカンヌ映画祭コンペに選出されていたのでとても楽しみにしていた映画。アメリカでもNEON配給で現在公開中なので日本公開が意外にも早くてとても嬉しい。先に試写会で観させていただきとっても大好きな作品なので日本でも沢山の人に見て欲しい!と思うので、どういう作品かを紹介したいと思う。

このアリーチェ・ロルヴァケルという監督、まだ日本では映画好きには知られているがというくらいの認知度だと思うので、ざっくりどういう監督かということから書いておくと、

1981年イタリア生まれの女性監督。
2011年に長編デビュー作の『天空のからだ』がカンヌ国際映画祭監督週間部門に選出。次ぐ長編2作目『夏をゆく人々』でカンヌ映画祭でグランプリを受賞。3作目『幸福なラザロ』でカンヌ映画祭脚本賞受賞。

『幸福なラザロ』では作品製作後にマーティン・スコセッシが絶賛し、アメリカ配給に向けて製作に名乗りをあげたことも。
他にもポン・ジュノ、グレタ・ガーウィグ、ソフィア・コッポラ、ギレルモ・デル・トロ、アルフォンソ・キュアロン、ケリー・ライカートなど名だたる監督たちがロルヴァケルのファンを公言している。
ディズニー+で配信された短編の『無垢の瞳』ではアルフォンソ・キュアロンが製作を手がけ、アカデミー賞短編実写賞にもノミネート。

そして待望の長編4作目の最新作が『墓泥棒と失われた女神』(原題は『la chimera キメラ』)。
主演作が立て続けに公開され評価の高い話題作が続くジョシュ・オコナー(今年はこのあと日本でも『チャレンジャーズ』が控えている)が主演。『幸福なラザロ』を観た後、彼が監督へラブレターを送ったことがきっかけで主演することになった。

今作のあらすじは、大切な相手を失い喪失感を抱えた男が主人公。彼はダウンジングで古い墓を見つける不思議な能力を持っており、その中に死体とともに埋められた副葬品を盗んで生計をたてる墓泥棒を仲間と行っている。

失った女性の母親をイザベラ・ロッセリーニ(ブルーベルベット、マルセル 靴をはいた小さな貝 など)が演じる。その母親のもとで歌の生徒兼お手伝いさんとして働く女性との出会いにより彼の気持ちに変化がおとずれる。

というもの。過去作含めその要素はあるが、今作はもっとも色濃く生と死、空想と現実、神話と現代の境目を自由に行き交うマジック・リアリズムの世界が際立つ。そしてこれも監督作全てで描かれる資本主義社会への批判。

過去作から今作までその美しい映像の撮影は女性撮影監督のエレーヌ・ルヴァール。過去のロルヴァケル作品全てと、ロストドーター、17歳の瞳に映る世界、ペトラは静かに対峙する、ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち、アニエスの浜辺などを手がける。この並びからも分かるように撮影監督として傑作揃い。
今作もデジタルではなく、35mm、16mm、スーパー16mmと複数のフィルムを使い分け生と死の曖昧な世界を見事な撮影で表現しておりその独特の撮影がそのままロルヴァケルの作風にもなっている。

また今作ではロルヴァケルの過去作のキャストもカメオ出演も監督のファンであれば嬉しいお土産。『天空のからだ』、『幸福なラザロ』、『夏をゆく人々』3作の主演キャストがカメオ出演している。

今年のベストになるだろうなと思って楽しみにして期待値を高めて鑑賞したが、本当にたぶんベストになる作品。
映像の美しさと行き過ぎないギリギリのラインで繰り出されるユーモアといい意味で変わった演出。興奮してしまうような素晴らしいシーンの連続。愛すべきキャラクターたち、「アフターサン』ばりのダサかっこいいダンスシーン。全てが愛おしい作品。

そしてロルヴァケル作品は過去4作品全て観た後にそのまま続けて2回観てしまう中毒性があるのだけど、今作のもまたその気持ちになる。さらに今作は過去作よりも手数?が多く、まだ消化できてない部分も多いので複数回観たくなる。公開されたらもちろんまた観に行く!
今年は「夜明けのすべて』『リンダはチキンがたべたい!』『哀れなるものたち』『パストライブス』など傑作が前半から多いけど現状1番好きなのが「墓泥棒と失われた女神』なのは間違いない。


『墓泥棒と失われた女神』のインスパイア元として監督があげている5作品を紹介

・『冬の旅』アニエス・ヴァルダ
・『フェリーニのローマ』フェデリコ・フェリーニ
・『イタリア旅行』ロベルト・ロッセリーニ
・『アッカトーネ』ピエル・パオロ・パゾリーニ
長谷川朗

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