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PERFECT DAYSのandesのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.0
一見、日常系のほのぼの映画であるが、非常に巧妙で作為的な映画である。ドキュメンタリータッチでリアルに嘘を描いているので騙されそうになる。ただ、全編通して妙な違和感があり、やっぱりこれは「気持ち悪い」映画だと思う。
まず、「普段気付かない小さな幸せ」みたいなものを描いているようで、実はその小さな幸せさえもご都合的な「大嘘」なのである。
極端に無口な「イケオジ」主人公は自家用車で職場に通い、若い女性にもいきなりキスされるなど異性から好意を持たれる(可愛い姪も慕っており、スナックのママともいい感じ)。金のかかるアナログ趣味に興じており、毎日外食で気のいい仲間が声をかけてくれる(早番なのにスーパーに行くシーンもなく自炊もしていない)。不可能である。
つまり、この映画で描かれる「小さな幸せ」=虚構は、我々が現実で見つけられる「小さな幸せ」ではないのだ。映画で描かれる「主人公の周りだけ妙にノスタルジックな東京」でしか起こりえない空想である。ズルいと感じる。老監督の妄想と言ってもいいと思う。あと、冷静に主人公の特徴を考えたら、ヤバい狂人である。
その分、本当にリアルな(惨めな)部分は良い。平山が仕事を飛ばした若者に「シフトどうすんだよ」とキレるとこや、会社に文句を言うシーンは説得力がある。ラストシーンも悪くない。平山の表情は狂気じみて、しっかりヤバい奴にみえる。彼は自尊心を捨てたので、この生活を続けられているのだが(変えようともしない)、見ようとしない自分のリアルに気づいてしまったのなら…。個人的にはバッドエンドと受け取る。そうすれば、「幸せ」の対価としてバランスがとれてはいる。とはいえ、架空日本のエキゾチシズムにコーティングされた妄想物語なので、褒められた映画ではないと思う。
選曲も冴えない。というか、平山が好きな音楽に見えない。後ろにヴェンダースの自意識が透けて見える。姪の名前がニコなのも絶妙にダサい。
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