ストレンジラヴ

若き仕立屋の恋 Long versionのストレンジラヴのレビュー・感想・評価

若き仕立屋の恋 Long version(2004年製作の映画)
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「採寸は必要ありません。あなたのサイズは知っています。この手が覚えています」

凝縮された粘り気。
僕は「仕立」という言葉の持つ独特の響きがとても好きだ。職人の柔らかな手が重厚な生地を伝い、縫い糸が通り、裁ち鋏が規則正しく音を立てていく。アイロンが馴らした後には一分の隙も残されていない...その肌触りが何とも心地いいのだ。
水気たっぷりの「恋する惑星」(1994)とは打って変わって、こちらではコシのある物語が綴られる。時代の流れと共に落ちぶれていく高級娼婦と、見習いの頃から彼女を見守り献身的に職責を果たしてきた仕立屋の間の本人たちにしか理解できない感覚がとても丁寧に、それこそ一針一針縫うように描かれていて濃密な56分間だった。特に語らず見せずのラストシーンにはただただ唸るばかりで、わずかにでも狂えば全てが台無しになるという極限の平衡感覚を保てているのが見事。欧米には到底無理な感情表現で、これを理解できるということがアジアに生まれた醍醐味と言えるかもしれない。最初から最後まで"感触"を貫き通した作品だった。