ウサミ

首のウサミのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.2
「どいつもこいつも狂ってやがる。」
という文句は個人的には嫌いですが、映画はジワジワ来る面白さでした。
北野武映画なので、血と暴力を観に行く覚悟で映画館に入ったわけですが、アドレナリンのたぎりを味わう作品では無かったため、若干の肩透かしをくらいました。

やや感想を書くのがの難しい作品です。
北野武のやりたいことを全力でやっている映画、という印象を、個人的には感じなかったために、作品を通じて描きたいものが、掴めなかったからです。
感想なんて主観なので正解がないし、中身なんてなんでも良いんですが、何を書いても、的外れな気がしてしまいます。
この感覚は、以前鑑賞した宮崎駿の『君たちはどう生きるか』にも通ずるモノだと感じました。北野武や宮崎駿は、あまりにも偉大な過去作品により、多くのアーティストを苦しめてきたのだろうと思いますが、ベテランになりレジェンドと呼ばれるようになった彼らが、自身の過去作にまた同じように苦しめられているとさえ感じました。
血みどろの暴力も、間の抜けた笑いも、北野武らしいが、しかし型にはまっており、「らしさ」に縛られるあまり散らかってしまったのでは?と感じました。ひとつひとつの画や空気感は素晴らしいが、そこに必然性が感じられず、北野武「らしさ」のコラージュのように思えてしまったのです。これはハスに構えた見方かもしれませんが、「北野武なら暴力」「北野武なら笑い」という固定観念が、作品の本質を紛らわせてしまったのではないか、と思います。(シーンのクオリティはとても良いです。刀饅頭は嫌いじゃないですし、荒川良々の腹切なんかのように、素晴らしい暴力シーンもありました。ビートたけしと大森南朋の掛け合いも、素直に笑えました)

『ソナチネ』などのように、笑いと紙一重の狂気がやがて繋がり、暴力と命が繋がっていくようなカタルシスが薄いです。そのため、頭をうんと働かしてなんとかテーマを汲み取ろうとしないと、分からなくなってしまいました。
やはり、北野武の看板のもと、大戦国絵巻の看板を掲げる以上、そしてKADOKAWAの名前の元で旗揚げする以上、観客を惹きつけるファクターが必要なのは承知ですが、それによってバラけてしまったものも確かにあるはず。もっと焦点を絞り、僕の好きなシーンが何倍にも増幅したような作品だったらなぁ…と妄想すると、やや勿体無い、惜しいことをしたなぁ、という感情が首をもたげてしまうのは、僕だけでしょうか。

とまぁ「ごたく」を並べましたが、やはり、作品としてはとても面白かったです。
戦国時代、殺し合いが正当化された野蛮な時代。そこにヒロイズムも仁義もカリスマなく、ただ泥臭く、裏切りと策謀、欲にまみれ、暴力を振り翳して権力を手にする。北野武の視点はとてもシャープで、彼なりの解釈に心を動かされました。

武将たちみんなカッコつけてるけど、信長は失望されまくってるし、秀吉は部下頼みだし、光秀は色ボケだし…
時代を突き動かしたヒーローにカリスマ性はなく、あるのはリアルな社会の構図だけ。そこに殺人が正当化されているのだからもうめちゃくちゃ。
底辺層は「首」を求めて、軟弱者も死体の首を切ったり同志を不意打ちして、首さえ持ち替えればそれだけでOK。上の者は適当に褒美を与えて、頭いい奴の謀反に気付かず身内を可愛がって反逆されて、追い詰められたらカッコつけて腹切ればOK。
「こいつらアホや」
「なんだ、まだやってんのか!」
戦国時代なんて、結局、滑稽滑稽。
どうせ滑稽なんだから、ただ欲に忠実な信長や、卑怯な秀吉、合理的な家康の方が、確かに人の上に立てそうではある。なんでこいつら真面目にやってんの?戦国なんだから、好き放題やりゃいいじゃん!
やや誇大解釈をするなら、人間昔っから本質は変わらんよと、今だってそうじゃん、滑稽じゃん!と、そんな描き方にすら思えました。

刀咥えて血まみれの荒木とか、仰々しく切腹してもお笑いな清水とか、ああいうシーンこそ滑稽で面白い。北野武映画って感じする。なんなら戦国のシーンなんていらなかったのでは?キャストももっと減らせたのでは?(個人的には中村獅童のキャラは好みではないが作品の味わいを深くする役割に思った。もっと掘り下げるか別のアプローチでも良かった?)
寺島進や勝村政信が観れるのはファンには嬉しいだろうが、別にいなくても良かったんじゃ…?(少なくとも、滑稽な武将たちとの対比としての仕事人、という役割としては弱い、もしくは冗長な気がした)

良い点も悪い点もたくさんありますが、少なくとも、観た後に思考がぐるぐる動かされるくらいには、素晴らしい映画だと僕は思います。
ウサミ

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