りゅうき

花腐しのりゅうきのレビュー・感想・評価

花腐し(2023年製作の映画)
3.1
打ち付ける波、棒高跳びの北極星
白い波が黒い砂を毛布のように覆い、
その隣で愛した女と親友が死んでいた。


忌中

一人の女が死んだ。心中だった。
実家に出向いたが両親に祈る時間も与えてもらえず、降りかかる雪の中、彼女の町を後にした。


忌中

一人の男が死んだ。私の愛した女とともに。
白いシャツと黒いネクタイ、味のしない寿司に囲まれて、彼は棺桶の中で眠っていた。



家に帰って、一人分空いた部屋から、さらに一人分の荷物を空けていく。

もう二度と会えなくなった2人はピンク映画の監督と女優だった。


喪明

新しく出会った男の名はイセキといった。
傘を捨てたくなるような雨の中、ボロいアパートへ彼を訪ねていた。


雨が降ると生前の彼女を思い出す。

「傘をさしていたのになぜ濡れてるの」と聞かれたので「お前が濡れないようにしていたからだよ」と傘を傾けていたことを言うと、
白い歯を見せて、輝いた黒い瞳でキスをした。


アパートの立ち退きを迫りにきたのに、イセキはビールを飲んでタバコを吸い、気にしない素振りで会話を始めてきた。
居酒屋のバイトだった彼と男子トイレで吐いた女の出会いについてだった。

イセキの話の後、死んだ彼女の話をした。
これも雨の記憶だった。ザリガニが道の上を歩いていて、彼女がそれを拾って、家に帰ってセックスをした。

空の缶ビールが増えるたびに互いの過去が交換されていく。
トイレで吐いた女はイセキの童貞を奪い、
亡くなった彼女はどの記憶の中でもいい女だった。

白い缶ビールで、黒い感情を流し込んでいく。
それでも結局なぜ彼女が死んだのかはわからなかった。

酔いつぶれてアパートを訪ねた目的がどうでも良くなった頃、いつの間にか眠ってしまい夢を見た。

彼女がスナックでカラオケを歌っていた時の記憶だった。

カウンター席から立って、歌詞を映したディスプレイを少し遠い目でまっすぐに見つめていた。
当時はその歌いきる姿を煙草を吸いながら横でただ聞いていた。


夢の中でその歌が終盤に差し掛かった。
気づけば無意識に立ち上がり記憶と違う行動を取っていた。
カウンターの端に置いてあったもう一つのマイクを手に持ち、彼女の隣で同じように歌詞を見つめながら熱唱した。

夢がどこで終わったかは覚えておらず、最後までディスプレイを見つめる彼女と目が合うことはなかった。

心中した理由と犯したかもしれない彼女への罪は不明瞭なまま、ただ、さよならだけは言えたような気がした。
りゅうき

りゅうき