囚人13号

ぼくたちの哲学教室の囚人13号のレビュー・感想・評価

ぼくたちの哲学教室(2021年製作の映画)
4.0
見事にやられた、これは校長が大好きになってしまう。哲学が必修科目となっている北アイルランドの男子小学校、円形に組まれた席に思想のボールが回って意見が飛び交う。議論はするが問題解決のためではなく個々の考えを認識し合う場としての哲学授業、それはいつしか暴力に抵抗する暴力が連鎖して紛争に発展した哲学なき時代の母国の過去を示唆し、その抑止力である子供たちは多様性と共に考えること、受け入れることを学ぶ。

社会の縮図である小学校で起こる数々の挿話も捉え、喧嘩と和解、生徒が起こした実社会との問題、個人の抱える心理的ストレスなどそれら一つ一つに対峙するマカリーヴィー校長はじめ教師陣も彼らを正しい方向へ導くための接触、コミュニケーションをとても大切にしていた。

しかしドキュメンタリーなのでカメラは一対一の空間にまで侵入していく、小学生とはいえかなりセンシティブな部分にも触れるしカメラの存在を無視していなければ真面目な映像として残らないため、やはり人間のドキュメンタリーは必ずどこかで映画の矛盾に到達する、故に主題から完璧なものは生まれにくいというのが現状かな。
美しい空撮で映画は幕を閉じるが人生も街も課題はまだまだこれから、残忍な過ちを二度と繰り返さぬよう過去から学ぶ小さな哲学者たちは、町のどんな絵よりも尊い壁画の下で今日も人生を謳歌する。

エンドロール後の映像も最高、この数秒間が設けられてる映画ではベストかもしれない。マジで尊すぎー。
囚人13号

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