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ピストルライターの撃ち方のKUBOのレビュー・感想・評価

ピストルライターの撃ち方(2022年製作の映画)
4.0
4月2本目の試写会は『ピストルライターの撃ち方』マスコミ試写会。

素晴らしい作品でした。傑作です!

安全性が確認されないままの再稼働で2度目の原発事故が起きたという設定の架空の近未来の地方都市が舞台。

主人公の達也は、除染作業の労働者を集めてくるヤクザの使いっ走り。相棒の諒はムショ帰りの親友。そこに男の借金の方に働かされている風俗嬢のマリが加わり3人のぎこちない擬似家族的な暮らしが始まる。

集められてきた労働者たちはタコ部屋に閉じ込められ、最低限の食事しか与えられずに、日々帰宅困難地域の除染作業に送られる。

国からは多額な資金が出ているにも関わらず、孫請け、曽孫請け、果ては8次請け(!)と呆れるほどの中抜きが行われ、僅かな賃金で死ぬまで働かされる。

「俺らはあいつらよりマシかな?」

ヤクザに指示されて労働者たちをまとめる達也たちは自問自答する。

「俺たちは使う方に回るんだ!」

「勝ち組」「負け組」

「人間に上も下もないんだよ」マリが叫ぶ。

汚染地域には居場所がない人たちが集まる。原発問題は全て差別構造だ。

それでも新設される原発。原発マネーは支配層の政治家や企業だけでなく、そこで生まれる小金に群がる貧困層の人生をも振り回す。

ヤクザと労働者の中間管理職のような立場にいる達也には、認知症の母がいて、ここから離れることができない背景がある。

諒は実家が期間困難区域にあることから「お前の家は保証金をもらったんだろ!」「戻ってきても帰る家ないじゃん」と、同じ地域に住む者からも、やっかみやら差別やらの声がかかる。

ともかく、重く重要なテーマのてんこ盛りなんだが、この作品のすごいところは、そういう社会的な問題を提起するだけのかたい映画に終わらずに、その底辺に生きる人たちの足掻き続ける人生を描き切っていること。

主人公・達也を演じる「奥津裕也」が素晴らしい。自身で「劇団狼少年」を主催する演劇人。失礼ながら私は本作で初めて彼の芝居に触れたのだが、常に不本意な決断を迫られるパワーバランスの中で、流され、苦悩する達也の「目」が素晴らしかった。

またマリ役の黒須杏樹、言いたいことが言えない男たちの中で、ひとりズバッと言い切るキャラクターよかったな〜。

音楽や音響にもチカラを入れているのもよくわかる。インディーズとして、これ以上ない完成度だ。

「原発」に伴う数々のテーマを訴えながら、あくまでもそこで生きる「人間」を描いた傑作! ひとりでも多くの方に見ていただきたい作品。全力でオススメします!

『ピストルライターの撃ち方』は6月17日よりユーロスペースにて全国順次公開スタートです。
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