1950年代のマンハッタンらしき街を舞台に、『ウェスト・サイド物語』らしき物語をLGBTQ物語に換骨奪胎し、それを前衛的な映像を用いて表現した、アマンダ・クレイマー監督のドラマ映画。
ギャングの若者たちがカップルを殴り殺す場面を、か弱そうな夫婦が自宅のあるアパート前で目撃してしまう。夫婦に気付いたギャングたちはその夫婦を睨みつけ、アパートの部屋番号を聞き出す。そんなシーンから我々が無意識のうちに想像してしまう登場人物たちのジェンダー観を見事に破壊することから本作は始まる。夫のアーサーはギャングのリーダーと怪しげに見つめ合う。一方、妻のスーズのほうは男性性を増していく。
ストーリーはあってないような感じだけれど、ジェンダークィアな主人公たちの振る舞いや会話にずっとジェンダー観を揺さぶられる作品である。ネオンカラーによる人工感あふれる映像とムーディな音楽の中で幻想的でエロティックな世界が展開するというアート的な作りは、LGBTQ映画にかなり食傷気味な人(自分を含む)でも、飽きずに味わうことができるだろう。
やはり、スーズ役のアンドレア・ライズボローの演技が良い。身体が細いだけにマチズモ的振る舞いとのギャップが際立っている。特に、お尻にアイロンを当てられながら悶えるシーンが印象に残った。夫婦の住むアパートの隣人としてちょこっと出てくるデミ・ムーアの必要性はよくわからなかった。