ゑぎ

シャンゼリゼをさかのぼろうのゑぎのレビュー・感想・評価

3.5
 邦題の「さかのぼろう」は主に歴史のことなのだ。17世紀まで遡り、シャンゼリゼ通りの変遷を描いた、『王冠の真珠』と同じような趣向の映画だ。クレジットバックは馬車の車輪を繋いだ画面。クレジット開けは小学校の校庭で子供たちが遊んでいるのだが、側転する子供がいて、回転運動のマッチカットになっている。左へパンして建物からギトリが登場(以下、ギトリ先生と記載する)。彼が右へ歩いて行くので、今度は右へパンする。子供たちが整列して建物へ入る。ギトリ先生の授業。大きな数字の掛け算をやらせるのだが、教室を一回りして、火急でないこんな問題は置いておいて、話をしようと言い出すのが、まず笑わせる。シャンゼリゼは知っているかい?その昔、オオカミやイノシシの出る森だったんだよ。こゝから、若きルイ13世が、イタリア人の大臣コンチーニを暗殺するクダリに入っていく。

 歴史劇の中のギトリの登場場面は、ルイ13世が馬車に入っていくショットを見せ、次に馬車から降りて来るのが、ギトリ演じるルイ15世というような、凝った繋ぎが使われている。この頃のシャンゼリゼは、見世物小屋が立ち並んでいる。こゝで、占い師として出て来るのが、ジャクリーヌ・ドリュバックで、彼女にとって本作がギトリ作品への最後の出演作のようだ。本作には、少し後のシーンで、ジュヌヴィエーヴ・ギトリ(この時点ではジュヌヴィエーヴ・ドゥ・セレヴィル)も登場するが、、出番は少ないながら、とても美しいアップショットが与えられている(庭の彫刻の影に隠れて石を投げ、ルイ15世-ギトリ誘う娘)。これには複雑な心境になる。

 さて、ドリュバックの占いで、ルイ15世は、忠臣ショーヴランが死んだ半年後に死ぬと云われ、ショーヴランの健康ばかりを気にし、自分は好き放題する、という展開が前半の最も面白い部分だと思う。一方、ルイ15世には、シャンゼリゼに愛人ルイゼット-リゼット・ランバンがいる。その間にできたのが、冒頭のギトリ先生の祖父なのだ。ギトリは、この祖父の壮年期、さらに第二帝政の皇帝ナポレオン3世、およびギトリ先生の父の晩年も演じており、実に5役で登場する。また、ナポレオン3世以外は、血族になるが、彼らは、皆、54歳で子供ができて、10年後に死ぬことを繰り返しており、冒頭のギトリ先生は、今日が64歳の誕生日だということを中盤で明かすのだ。

 あと、ギトリ先生の祖父はシャンゼリゼにカフェをオープンするが、その息子(ギトリ先生の父)は、ジャン・ジャック・ルソーの設計図を元にカフェを改装し、音楽ライブのレストランを開く。すると、若きワーグナーが指揮者として雇われる、と云った歴史上の人物を登場させる。ちなみに、マリー・アントワネットのクダリほとんどない。ワンカットのみか。また、ナポレオン・ボナパルトの隠し子(娘)が、ギトリ先生の父と結婚してできたのが、冒頭のギトリ先生、という設定になっている。本作においても、短いシーンを駈け足で繋ぐ場面転換は、少々せわしなく感じる。

 撮影で圧巻なのは、終盤のダンスシーンを繋げるシーケンスだろう。クレーン撮影のショットをいくつも繋げる演出には、とても興奮させられた。撮影者は、ジャン・バシュレで、ルノワールとのコンビ作が有名だが(『ゲームの規則』など)、ギトリとも『新しい遺言』や『毒薬』など多くの作品で組んでいるけれど、これほどダイナミックな撮影は他に無いのではないか、と思われるものだ。
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