Hiroki

AIR/エアのHirokiのレビュー・感想・評価

AIR/エア(2023年製作の映画)
4.2
81thゴールデン・グローブ賞のノミネーションがあって、これがあるとオスカーに向けて今シーズンのアメリカの賞レースが動き出すなーという感じがする。
ということで今回の映画部門のノミニーを簡単に。
最多は『バービー』で9部門。日本でもついに公開が決まった『オッペンハイマー』が8部門。次いで日本では来年1月公開の『哀れなきもの』と『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が7部門。
日本からは長編アニメーション&作曲賞で『君たちはどう生きるか』、長編アニメーションで『すずめの戸締り』がノミネート。
ちなみに『君たちはどう生きるか』は吹き替えが超豪華な事でも話題になったが、北米の初週公開で1位を獲得、ボストン映画批評家協会賞やロサンゼルス映画批評家協会賞などの長編アニメーション部門で今シーズン大本命『スパイダーマン』を破って受賞しており大いに期待できる!

個人的に楽しみなのはアキ・カウリスマキ『枯れ葉』のアルマ・ポウスティが女優賞(ミュージカル/コメディ)にノミネートされたこと。
まー相手がマーゴット・ロビー、エマ・ストーン、ナタリー・ポートマンだから厳しいとは思うけど。

オッペンハイマーは置いておいて主要賞の複数ノミニーで日本ではまだ観れない作品がかなりあって。
上記の『哀れなるものたち』が1/26公開、2部門ノミネート『カラーパープル』が2/9公開、4部門『Anatomy of a Fall』が2月公開、4部門『Past Lives』/4部門『My December』/2部門『The Zone of Interest』が2024年中公開。
ノミネートされるかはまだわからないけどオスカーを見据えると、『哀れなるものたち』『カラーパープル』『Anatomy of a Fall』は発表前に観れるが、下の3つは難しそうかな。
オスカーノミネーションも楽しみ!

さて今作は作品賞(コメディ/ミュージカル)と男優賞(コメディ/ミュージカル)のマット・デイモンの2部門ノミネート。
お馴染みベン・アフレック&マッド・デイモンの盟友コンビで、製作&配給がAmazonということで公開から約1ヶ月でアマプラでも配信。
興収的には北米で約0.5億ドル(約72億円)、全世界で約0.9億ドル(約130億円)とあまりふるわなかったけど、これはアマプラで観た人も非常に多いのではないかなーと。

物語としてはNBAの神様“MJ”ことマイケル・ジョーダンのシグニチャーモデル“AIR JORDAN”の誕生に関する事実に基づくお話。
ただこれ大枠は事実に基づいているが、かなり脚色されているとの事。
そのためか劇中に当人のMJはほぼ出てきません。登場しても後ろ姿とか顔を映さないショットばかり。
まーまだ本人まだ生きているし権利的な問題があったのかもだけど。
主役はNIKE側でこの契約に関わった伝説のスカウトであるソニー(マット・デイモン)と代表のフィル・ナイト(ベン・アフレック)、天才シューズ職人のピーター・ムーア(マシュー・マー)、そして彼を支えるストラッサー(ジェイソン・ベイトマン)とハワード(クリス・タッカー)。
私は映画と同じくらいNBAが大好きなのでNBAファンからするとここに出てくる人たちって歴史上の人物みたいなものなんですよ。
劉備と項羽と諸葛亮が出てきたみたいな感覚。

ただ本当に疑問なのがNBA好きじゃない人がこれ観てどのくらい楽しいのだろう?
(ちなみにスポーツに全く興味のない映画好きの友達は「よくわからなかったけどなんかワクワクした。でも何が行われていたか質問されてもたぶん答えられない。」と言ってました。)
序盤に「ゴンザガってどこにあるの?」と何回もネタのように擦られてたんですけど、今ではNCAA(全米大学体育協会)内のバスケ強豪校で八村塁がいたことでも有名なゴンザガ大ですがこの1984年時代は弱小大学だった。
劇中にも名前の出てくるジョン・ストックトンという名選手がきっかけで有名になり、当時は「ゴンザガが大学名なのかストックトンが大学名なのかわからない」というジョークが流行ったほど。
まーつまりNBA好きとかアメリカのスポーツ好きにとってはそれだけで笑える話なんだけど、アメリカ以外のスポーツ好きでもない人にこの小ネタはどのくらい伝わるのだろう?

最初に説明があった通り当時のバッシュマーケットはマジック・ジョンソンやラリー・バードというレジェンド選手が履いていたコンバースと、HOTで音楽とも関わりの深いadidasの2強でNIKEは見向きもされていなかった。
さらに「ジョージ・オーウェルのように」と揶揄されていた1984年はNBA史上最高のドラフトと呼ばれる年になったほどの豊作。
MJはもちろん上記のストックトンなど4人が「NBAの偉大な50人」に選ばれ、延べ45人(45回)がオールスターに選ばれるという最高の年代。
つまりあの序盤の会議で名前が出てきたバークレーやストックトンと契約していてもNIKEは成功していた。
もちろん今のような世界最高のスポーツブランドになるまでの急成長はなかっただろうけど。

ちょっとここまでかなり長くなってしまったのであとは簡潔に。
内容的にはビッグ2であるコンバースとadidasを出し抜いてNIKEがいかにしてMJと契約できたかというビジネスモノで、特に良いのが一旦契約という運びになったあとにもう一山展開がある所。
これこそが今のスポーツビジネス界では当たり前となっている、本人にスポットを当てた商品=シグニチャーモデルとそれに合わせたインセンティブ(歩合)の導入に深く関わる内容で、まさに歴史が変わった瞬間。
若干難しい契約の話を省略しないでしっかり描いているのは素晴らしい。
あとは80年代の話なのでフィルム感のある映像とか細かいガジェットや美術などなども素敵。当時の映像を所々に入れているのも良い。
音楽も80's最高。シンディー・ローパーめっちゃ良かった!

キャストは中年太りマット・デイモンもいいけど、MJの母親役のヴィオラ・デイヴィスがとにかく素晴らしい!
あの“Big Mom”的なオーラを出せるのはまさにヴィオラ・ディヴィス。
あと個人的に久しぶりに見たクリス・タッカーも良かった。歳をとってもクリス・タッカーはクリス・タッカーだったなー。

ちなみにこんな事を言うと水を差すかもしれないのですが、NIKEの共同創業者フィル・ナイトはなんでも自分で進めないと気が済まない性格で、MJとの契約に関してもほぼ全ての社員が知らなかったとの事。
もちろんソニーやストラッサーは契約内容について知ってはいただろうけど、この物語よりかなりフィルム・ナイト主導で進んでいた契約らしい。
しかも主要人物はこの後ソニーはリーボックに、ストラッサー&ピーター・ムーアはadidasに(ピーター・ムーアは独立後にadidasへ)行って袂を分つことになる。
ラストのその後ではあえて省略してたみたいだけど。
まー現実とはそんなものだよね。

もちろんそれでこの映画の素晴らしさが損なわれるわけではないのも、最後に付け加えておきます。

2023-66
Hiroki

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