真一

マネーボーイズの真一のレビュー・感想・評価

マネーボーイズ(2021年製作の映画)
3.8
差別と貧困がもたらす
苦痛と屈辱感。
それを背負う者同士の
性と愛と嫉妬。
売春とカネ。

力作だ。

舞台は、台湾。
地方の貧困家庭出身の
フェイには、病に犯された
母と祖父がいる。治療費を
ひねり出すために
学歴も資格もない
フェイができることは、
男娼だった。

異性愛と同性愛。
富裕層と貧乏人。
大都市と片田舎。
光と影。

自分がフェイだったら、
あのような道を選ぶなんて、
どう考えても無理だ…

フェイは、それをやり遂げた。
歯をくいしばって。
だが、表情には出さない。
物静かで気配を感じさせない
フェイのたたずまいが、
作品に鬱々とした雰囲気を
与えている。

恋人のシアオレイが女性と
結婚し、子供を設けていた
ことも、哀しい。
同性愛者であることを
隠すための偽装結婚。
「ブロークバックマウンテン」
を思い出させる悲劇だ。

台湾では2019年に同性婚が
合法化されている。
それでも、こうした作品が
生まれるのは、制度が整っても
社会に根を張る差別感情が
以前として強いからだろう。

同性婚自体を認めない日本に
おいては、なおさらだ。
フェイもロンも、私たちの社会に
必ず実在する。
私たちの刺すような視線を
感じながら、きょうも生きている。

さらに言えば、実家のため、
子供のために都会で黙々と
性を売る多くの女性たちも、
フェイと何ら変わりはない。
自分はそんな現実を忘れて
生きているんだなと、ふと
思った。

貧富の格差が行き着く終着駅
としての、売春生活。
その一端を、本作品は
美しい台湾の風景を
織り混ぜながら
鮮やかに描き出す。

冒頭に写し出される
波打ち際の濡れた岩は
フェイの故郷、
海の向こうに見える
原発とおぼしき建物は
都会のメタファーだと
感じた。

交互に登場する
ハードな場面と
スローなシーン。

印象深い映画でした。
真一

真一