真一

ゴジラ-1.0の真一のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.0
 「ここが凄いぞ日本人」系の映画。敗戦直後の焼け野原の東京に大怪獣ゴジラが出現したとしても、きっと映画のように気骨あるサムライが馳せ参じ、この国のために奉公したはず。やっぱり日本人は不滅だー。こうした気分を味わせてくれます。私は、こうした虚構の話で民族の誇りを再確認する本作品に、何ともいえない虚しさを感じました。

※以下、ネタバレ含みます。

 本作品は①旧日本軍の兵士たちは大戦中、大本営から虫けらのように扱われた②この苦い経験を踏まえ、元兵士たちは「人命尊重」の精神の下、対ゴジラ戦を敢行した③作戦は奇跡的に成功。日本人の底力がこの国の危機を救ったーというフィクションに基づきます。

 このシナリオを形にするのが、特攻隊の生き残りとして登場する零戦操縦士の敷島浩一(神木隆之介)。対ゴジラ戦で最期を遂げ、生き恥を拭おうと決意するものの、土壇場で「生きる」意味を噛みしめ、戦後精神を発揮します。この敷島の気持ちの変化と成長にグッと来る人は多いかもしれません。

 ただ私は、この作品が醸し出すこうした歴史観に違和感を抱きました。なぜなら、この映画のメッセージを煎じ詰めると「日本軍が兵士の人命を尊重していれば、私たちはあの戦争を恥じたり、後悔したりせずに済んだはずだ」という一点にたどりついてしまうからです。

 こうした教訓は、どう考えても間違っています。あの戦争は、アジア・太平洋地域の人々を殺傷し、凌辱した侵略戦争でした。仮に日本軍が米軍並みに自国兵の人命を尊重する組織であっても、この負の歴史を書き換えることはできないと思う。その視点が、本作品からすっぽり抜け落ちている気がします。それが、私が抱いた違和感です。

 ただ興味深い設定もありました。敗戦国日本が米軍の支援を得られず、窮地に陥るというくだりです。米軍が日本の意思を考慮せずに東京で熱核作戦に踏み切ろうとする「シン・ゴジラ」と対称的な内容ですが、アメリカが日本の命運を握っているという点では、全く同じです。いずれも今を生きる私たち日本人の国家観、時代観を感じさせる映画だと感じます。演出は良かったと思います。
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